大阪高等裁判所 昭和60年(う)1140号 判決 1991年3月22日
《目次》
被告人の表示
前文
主文
理由
控訴趣意及び答弁の表示
第一事実誤認の主張に対する判断(被告人らの捜査段階における供述調書の任意性・信用性についての主張及び審理不尽の主張に対する判断を含む)
一本件ガス噴出の経過について
1 総説
2 本件継手抜出しとガス噴出に関する原判示について
3 ガス噴出前に本件継手抜出しがあったとはいえないとの主張について
(一) 作業員らの目撃供述との関係
(二) 大阪ガス巡視員の本件事故前の調査との関係
(三) パッキングの焼け跡の存否について
(四) 本件継手抜出しの理論的説明
(五) 伊藤鑑定書について
(六) 本件中圧管のガス内圧の変動について
(七) 鉄建建設の昭和五三年五月の実験結果について
(八) 橋口当審鑑定書等について
4 本件ガス噴出のメカニズムについて
5 まとめ
二本件継手の締結力に欠陥をもたらした原因について
1 主張の要旨
2 初期性能の欠陥について
(一) 総説
(二) 補足説明
3 交通荷重による経年劣化について
(一) 総説
(二) 本件継手の強度について
(三) 大阪ガスの事故原因調査グループの実験について
4 地下鉄工事の影響について
(一) 総説
(二) 横断部付近地表の掘削・埋戻しについて
(三) 横断部北角付近のすかし掘りについて
(四) 中圧管に対する外力の作用について
5 まとめ
三予見の対象について
四本件継手に対する抜止め防護措置の工法上の必要性について
1 総説
2 結果回避措置の必要性の認識と予見可能性の関係
3 抜止め防護措置の目的と予見可能性
4 施工の具体例との関係
5 まとめ
五本件継手が抜け出すに至った具体的因果の面及び抜止め防護の施工が工法上必要であることについての被告人らの認識ないし認識可能性について
1 総説
2 本件ガス噴出に至る具体的因果系列とその認識ないし認識可能性
3 被告人らの経験、大阪ガスの責任、継手抜出しの先例等と予見可能性
4 原判決のいう「客観情況」について
(1) 書籍「地下鉄道施工法」について
(2) 「ガス導管防護対策会議」における調査結果について
(3) 大阪市交通局の地下鉄工事における抜止め施工の事情について
① 原判決及び所論の要旨
② 抜止め施工の実施状況についての関係者の供述
③ 施工例の検討
④ 不施工例の検討
⑤ 抜止め施工の普及状況の検討
⑥ 小括
(4) いわゆる条件付承認書写について
① 被告人A及び同Bが見たか否かについて
② 付記されている抜止め施工の意味について
5 まとめ
六抜止め施工の時期等結果回避義務について
1 総説
2 適切な結果回避措置はコーキングであるとの主張について
3 抜止め施工の時期に関する主張について
4 まとめ
七結果回避義務者について
1 総説
2 ガス会社の保安責任との関係について
3 被告人らは大阪ガスに危険を通報等するだけでよかったとの主張について
4 まとめ
第二法令適用の誤りの主張に対する判断
一主張の要旨
二当裁判所の判断
結び
別表
主文
本件各控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は、被告人らの連帯負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人平松勇、同天野一夫、同鵜澤秀行及び同天野実連名作成の控訴趣意書、釈明書及び控訴趣意補充書に、これに対する答弁は、検察官永瀬榮一作成の答弁書及び補充答弁書に、それぞれ記載のとおりであるから、これらを引用する。
第一事実誤認の主張に対する判断(被告人らの捜査段階における供述調書の任意性・信用性についての主張及び審理不尽の主張に対する判断を含む)
一本件ガス噴出の経過について
1 総説
論旨は、本件ガス漏れ(噴出)の原因は、大阪市大淀区(現在北区)天神橋筋六丁目からその東方の同区国分寺町に至る地下鉄二号線四工区の建設現場において、掘削中の坑内に露出宙吊りされていた三〇〇ミリガス導管水取器西側継手(以下「本件継手」という。)からのガス導管の抜出しではなく、右継手にかなり大きなガス道が生じたためであるのに、右継手からガス導管が抜け出したためである、と認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。
しかしながら、原判決挙示の関係証拠によると、原判決が〔罪となるべき事実〕の「五 死傷事故の発生」の項並びに「説明」中「第一 事故発生に至る経過と事故の発生」の「五 本件事故の発生」の「(一) ガス噴出とその後の経過」、「第二 ガス噴出の直接原因」における認定・説示、特に第二の「四 まとめ(ガス噴出のメカニズム)」の項において論旨と同趣旨の弁護人の主張に対し、①急激な内圧の低下を伴う大量のガスが激しく噴出したこと、②鋼管は抜出し量がある限度を超えるとその後は引抜抵抗力が急激に低下し、僅かの力で抜出しが進行すること、③抜け出た中圧管鋼管の管端から約八センチメートルの部位の管周にみられたパッキングの焼け跡とみられるものはゴムの焼け跡ではなく、ゴムの装着痕であることなどを指摘し、これらのことからすると、本件ガス漏れ(噴出)の直接の原因は本件継手からのガス導管の抜出しである旨説示している点は、相当として是認できる。当審における事実取調べの結果によっても、右認定は何ら左右されない。以下、補足して説明する。
2 本件継手抜出しとガス噴出に関する原判示について
所論は、原判決は、「―――その締結力に欠陥があり、ガス内圧に抗し切れなくなっていた本件継手が抜出しを始めて大量の都市ガスが噴出し―――」(原判決九丁表)とか「―――第一継手である水取器西側の本件継手が抜出しを始め、突如大量の都市ガスが噴出し出した」(同五八丁表)とか「本件ガス噴出は前記のとおり鋼管が水取器の承け口から少なくともほぼ完全に離脱し、大きな開口部を作ったものであることが明らかと考えられる」(同六九丁表)などと判示ないし説示しているが、これでは本件継手からのガス噴出が突然発生したものか、継手が多少抜け出し始めてからガス噴出が発生したのか、それとも本件継手が離脱してガス噴出が生じたのか不明で説明に一貫性がなく、前後矛盾している、というが、原判決の判示ないし説示の趣旨は、要するに、本件継手が(鋼管が水取器の承け口から)抜出しを始め、大量のガスが噴出した際には鋼管は承け口から少なくともほぼ完全に離脱し、大きな開口部を作ったというのであって、何ら前後矛盾するものではなく、所論は採用できない。
3 ガス噴出前に本件継手抜出しがあったとはいえないとの主張について
所論は、本件ガス噴出前に本件継手ガス管が離脱したとの認定が誤認であるとして次の(一)ないし(六)のとおり主張するが、いずれも採用できない。この点に関する当審における主張・立証は、次の(七)、(八)のとおりであるが、いずれもこの点の結論を左右するものとは認められない。
(一) 作業員らの目撃供述との関係
所論は、本件ガス噴出をすぐ傍らで目撃した作業員の供述(渡辺司[二通]及び西橋晴行の各検面調書)によると、①ガスが噴出するほぼ直前までガス臭はなかった。②初めシューシューという音がして、間もなく砂ぼこりをあげる程のガスが噴出した。③少なくとも渡辺や西橋が逃げ出すときは、ガス管の継手がはずれるようなことはなかった等の事実が認められ、これによると、少なくとも本件継手に抜け出すというような外見的状況が見られる以前に既に大量のガス噴出が発生したことは明らかである、というが、
原審で取り調べた所論渡辺司の検面調書二通(昭和四五年四月一一日付、同月二八日付。以下供述調書等の作成日付は年月日の数字のみ記載する。)及び当審で取り調べた所論西橋晴行の検面調書によると、右両名は本件継手からガスが漏出ないし噴出する前後にかけて右継手のすぐ側にいて右漏出ないし噴出状況を現認したものであるが、渡辺各検面調書によると、「スコップで本件継手付近で(五〇〇ミリ管の)ケレン作業をしていて、時計を見ると午後五時二〇ないし二五分ころガス臭い匂いがし、渡辺が五〇〇ミリ管、西橋が三〇〇ミリ管の各東側継手のところに匂いを嗅ぐべく鼻を近づけた途端(ガス臭を感じてから一分も経たない。)、すぐ目の前(西ないし西北側)からガスの噴き出す音とともに砂ぼこりを顔に浴び、咄嗟にガス管が破れたと思い、『ガスじぁ』と大声を発して、噴き出した箇所をはっきり見る暇もなく、その場から逃げ出した。ガスの噴き出し方はボーという音を立ててかなりの勢いで出てきたが、体が押し倒されそうになるほど強い勢いではないものの、見る間に地下は砂ぼこりに包まれ前方が見えなくなった。一目散に地下から飛び出したときには、既に舗板(覆工板)の間からほこりとともにガスが地上に噴き出しており、最初にガスが噴き出した辺りの舗板の隙間から高さ五、六メートル位に噴き上がっていた。西橋らとともに鉄建建設次いで錦城建設の事務所にガス噴出のことを伝え、再び現場へ戻ると、鉄建建設のホッパーのぐるりから激しい砂ぼこりが巻き上がり、初め噴き出した付近からもガスが噴出していた」旨、西橋検面調書によると、「ケレン作業を終わった午後五時半ころ渡辺がガス臭いと言い出し、私には匂いが感じられなかったが、渡辺が五〇〇ミリ管の東側継手に顔を近づけ匂いを嗅いだので私も西側継手に鼻を近づけたものの匂いを感じなかったが、渡辺がなお臭いと言うので、三〇〇ミリ管の継手(本件継手)に顔を寄せて嗅ぐと、そのとき匂いを感じるより先にシューシューという音が聞こえ最初覆工板上の自動車のタイヤの空気が抜けたのではないかと思ったが、その音がだんだん大きくなりやはりガス漏れかと一瞬どきりとしたところ、誰かが『ガスや』と叫び、続いて他の者も口々に『ガスや』というので、怖くなり、どの部分からガスが漏れてくるのか確かめないまま、早く事務所やガス会社に知らせなければと考え、他の土工たちに続いて逃げ出した。ホッパーのすぐ西側にある階段を上がる前に西方のガス漏れした方を振り返ると、ガス漏れの音はゴーゴーと地響きのようでガスの匂いも十分感じられ、工事場付近はもやがたちこめたように電灯の光りもぼんやりするほどガスが充満していた。私が三〇〇ミリ管の傍らを離れるときはガス管の継手部分が外れていたことは絶対ない。しかし、ガスは細い割れ目から漏れているというよりは、どの部分でどのようにしてガスが噴き出したのかは判らないが、ガス管自体を切り離してガス管全面からガスが噴き出していると言った方が良いような大きな音を出してガスが出ていた。地上へ上がってから西方を見ると、私が土落とし(ケレン)をした辺りの上では、覆工板の間からも灰色がかかった煙のようになってガスが上へ上がり付近にたちこめているのが見え、音もゴーと言うように聞こえていた」旨述べており所論①ないし③のような事実も述べていることが認められるが、同時に右渡辺、西橋各検面調書を総合すると、(イ)右両名は、ガスが漏出ないし噴出を始めて間もなく(その時間ははっきりしないが、せいぜい一分以内の短時間ではないかと思われる。)同所を逃げ出していてその後爆発時までの本件継手の状況を確認していないこと、(ロ)両名が逃げ出す前のガスの噴出状況とホッパー下に達したとき(ゴーゴーという音を立てている。)以後の状況にはガス噴出の程度に大きな差異があること(それ故西橋も、自分が逃げ出すまでは三〇〇ミリ管の継手が外れたことは絶対ない旨断定的に供述しながら、ホッパーのすぐ西側の階段を上がる前には、ガスは細い割れ目(隙間)から漏れているというよりは、ガス管自体(雄管と雌管と)が離れてガス管全面からガスが噴き出していると感じたのである。)が認められ、(ロ)の点は、爆発前、舗板(覆工板)の間やスクリーン舗板から勢いよく噴き出すガスの状況及び舗板の裏を下から砂を吹き付けるようなゴーとかシャー(サー)という大きく激しい音を現認した多数の者の供述によって裏付けられており(田口千尋の四六・六・二七付検面調書、原審証人岸岡謹吾(七回、一二回各公判、以下公判回数のみを記載する。)、同榎本徹(七回)の各公判供述、被告人Cの四六・七・五付検面調書など)、このような大量かつ激しいガスの噴出は本件継手部に単に間隙が生じ気密性が低下したといった状況からは説明できず、したがって、所論①ないし③の事実から、本件継手の抜出し前にある程度の量のガス漏れがあったとはいいえても、そのことから本件継手の抜出し前に本件ガス爆発に至るような大量のガス噴出があったとはいえず、所論は採用できない。
(二) 大阪ガス巡視員の本件事故前の調査との関係
所論は、大阪ガス巡視員栗川末雄の検面調書によると、同人が本件事故当日午後三時半ごろから四時ごろまでの間本件水取器付近を調査した際何らの異常も認められなかったのに、それから小一時間も経たない時点で本件継手が抜け出すほど締結力の劣化が進行することは工学的にみて考えられない、というが、
栗川末雄の四六・六・二九付検面調書によると、同人が下請け業者の従業員南口清文を伴い所論の日時ころ本件水取器付近を調査点検した際本件継手に外観上何らの異常も認められなかったのは所論のとおりである。しかしながら、伊藤冨雄作成の四六・六・一〇付鑑定書(以下「伊藤鑑定書(第一回)」という。)、原審証人伊藤冨雄(七二回、七三回)及び同福森康文(四三回)の各公判供述によれば、外見上劣化の徴候がなくとも、実際にジョイントが劣化していることは当然あり得ることが認められ、原判決挙示の関係証拠によれば、本件継手抜出しの原因は原判決が「説明」第二の「四 まとめ(ガス噴出のメカニズム)」の項で説示しているとおり「本件事故発生時においては、既に本件継手の締結力は元来予定されていた性能に比しガス内圧に耐えられないほどに低下しており、それが横断部北角の管下の土砂が除去され、このため横断部及びその前後の屈曲した部分を含む中圧管の全体が坑内で宙吊りとなり、横断部付近の管がきわめて容易に水平方向に動き得ることになったところから、右締結力の欠陥が外部に露呈し、微小な振動の影響を受けるなどして数時間後に抜け出しを始め、ついに大量のガス噴出をみるに至った」ものと認めることができる。そして右抜出し時の状況に照らすと、原判決が「右微小な振動の影響の程度は均衡を破るだけのごく僅かなもので足り、継手の劣化をさらに促進させるものである必要はない」旨説示する点は相当であると思料され、所論は採用できない。
(三) パッキングの焼け跡の存否について
所論は、本件継手の雄管の管端から八センチメートルのところに黒い縞模様が存在し、これはゴムの燃えかすである「パッキングの焼け」と認められるが、このことは右継手が抜けた時刻よりも、ガスの燃焼による高温に曝された時刻の方が早いことを示しており、したがって、ガス噴出前に継手の離脱(抜出し)がなかったことになる、というが、
関係証拠によると、本件口径三〇〇ミリメートル中圧ガス導管(以下「本件中圧管」という。)及び口径五〇〇ミリメートル低圧ガス導管(以下「五〇〇ミリ低圧管」あるいは単に「低圧管」という。)の各水取器と鋼管の接合は、いわゆるガス型接合で、接合部分の承け口(雌管)に鋼管(雄管)を八ないし一〇センチメートル挿入した上、その両者の隙間の奥にヤーン(麻糸)を押し込み、その側に溶かした鉛を流し込んで、それが冷えて凝結したところをハンマーで叩いて固め、その外側にゴム輪を巻き、さらに押輪で締め付けたものであり、もし右雄管が(爆発により)燃える前に抜け出したとすると、ヤーン、鉛、ゴムは押し輪で押さえられているため雌管の中に置かれたまま雄管だけが引っ張り出されることになるが、もし雄管が雌管と接合状態のままかなりの高温にさらされると、ヤーンは燃えてなくなり、鉛は溶けてしまうが、ゴムは有機物なので燃えるが、燃えかすは押し輪の内側に付着して残ることになる(いわゆるパッキングの焼け跡)ので、このパッキングの焼け跡がある場合には継手(雄管)が抜け出す前に爆発(火災による燃焼)が起こったことになり、パッキングの焼け跡がない場合には継手(雄管)が抜け出した後爆発(火災による燃焼)が起こったことになると考えられる(原審証人福森康文の公判[三八回]供述)。ところで、司法警察員作成の四五・八・一四付検証調書(以下「司法警察員作成の検証調書」という。)によると、事故後脱落した本件中圧管及び五〇〇ミリ低圧管の各水取器継手部の各鋼管(雄管)の管端から約八ないし一〇センチメートルの部位の管周に右ゴム輪の焼け跡のようなものがついていて、いずれも「パッキンの焼け」と記載されているところ(右検証調書添付二〇図、別冊写真四九八〜五〇一、五〇三、五〇四、五〇八〜五一二、五一四、五一七、七四七、七五五、七五六号等参照。)、これらを調査検分した前示福森証人の原審公判(三八回、四二回、四三回、四四回)供述は、低圧管の方はゴムの燃えかす(パッキングの焼け跡)であるが、本件中圧管の方はそれではなく、ゴムの装着痕である旨明言している。右福森はガス導管の専門家であり、本件事故後現場で本件中圧管と五〇〇ミリ低圧管の問題の箇所を検分し、さらに右証言時前示検証調書の別冊写真の関係部分を見せられ、また原審四二回公判後検察庁の地下に保管してあるパイプ(本件中圧管及び五〇〇ミリ低圧管の継手部分)を見た後も、終始同様の供述を維持しているものであって(なお、同証人は、五〇〇ミリ管は削って分析させゴムと確認したが、三〇〇ミリ管は資料を採取しなかったので、明らかにそんなもの[パッキングの焼け跡]ではなかったとも述べている。)十分信用できると考えられる。所論は、福森証言は自ら計算したガス噴出量の正当なことを立証しようとして、本件中圧管に付着していたものがパッキングの焼けこげ跡であることを否定しようとするもので信用できず、一方前示検証調書添付二〇図に本件中圧管及び五〇〇ミリ低圧管のいずれにもある「パッキングの焼け」との記載は、事故直後、本件の事故原因につき何らの予断も抱いていない警察官が記載したもので信用性が高い、というが、福森証言を子細に検討しても、所論のいうような意図のもとに供述しているとは認めがたく、また検証調書添付図の記載について右図面(二〇図)の作成者である当審証人中迎博章は、当時のことについては具体的な記憶は殆どないが、右図面は当時見たまま画いた。継手の接合部分にはパッキングがあって、それを両方からベルトで締め付けていることは(本件地下鉄工事現場の)他の箇所をよく見て判ったので、ここにもそれがあるものと考えた。それまでに検証などでパッキンの焼けを見たことがあり、その経験に基づいて判断した旨供述するが、右供述によって、中迎には二つの「パッキングの焼け」が同種のものに見えたことは認められるとしても、右供述から同人にゴムの燃えかすが付着したものか、単なるゴムの装着痕かの区別がつくものとは考えられず、右中迎証言及び検証調書の記載をもって前示福森証言の信用性を減殺しうるものとはいえない。なお、原審証人伊藤冨雄(七二回)及び同奥村敏恵(七九回、八一回)の各公判供述中にも本件中圧管の右パッキングの焼けがゴムパッキングの焼けかすであるかのように述べている部分があるが、福森証言と対比してたやすく信用できない。所論は採用できない。
(四) 本件継手抜出しの理論的説明
所論は、原判決が説示するように本件継手が離脱したとするためには、継手の締結力が単に内圧に耐えられない程度に低下するだけではなく、ガス管(雄管)が継手における管の挿入長(本件では原判決第六図によれば9.5センチメートル)に相当する長さだけ西方へ移動すること、即ち横断部の北角において管が9.5センチメートル西の方へ変形(移動)しなければならないが、このことが実際にありうることの理論上の説明がなければならないのに、原判決にはその説明がない、というが、
原判決に右の点についての理論上の説明がないことは所論のとおりであるが(原審ではその点が特に争点として取り上げられていなかった。)、当審証人福森康文の公判供述(以下「福森当審証言」という。)によると、横断部の北角で右雄管を約一〇センチメートル西方へ移動させるためには、右横断部南側スリーブの北側継手部の角度を西方へ約一度曲げることになるが(その他本件継手から北角を経てスリーブまでの管を動かす力が必要であるが、管がボルトで懸吊されているので、右管を動かすための力は計算上0.2ないし0.3トン・メートルと曲げの場合に比べ小さいので特に考慮しなくてよい。)、これに必要なモーメントは実験の結果によると一ないし二トン・メートルであり、右横断部の北角から横断部南側スリーブの右北側継手部までの長さが約6.3メートルであるから、一度曲げるのに要する力は二〇〇ないし四〇〇キログラム(計算上約一六〇ないし三二〇キログラム)となり、他方本件中圧管の内圧は約一トンであるから、本件継手の抵抗力がなくなれば十分抜出し可能と認められ、所論の点は十分説明が可能である。
(五) 伊藤鑑定書について
所論は、伊藤鑑定書(第一回)は、「七 ガス噴出機構」において「検証調書記載の前記ジョイントにおける中圧管の脱落は本件事故における覆工板の飛散落下その他により結果的に生起されたものと認められる」と指摘しており、原判決の前示説示は右鑑定の判断とも矛盾する、というが、
伊藤鑑定書(第一回)は、「本件――ガス噴出は、中圧管水取器西側ジョイントがゆるみ、その結果生じたすき間から発生したものであって、検証調書記載の前記ジョイントにおける中圧管の脱落は、本件事故における覆工板の飛散落下その他により結果的に生起されたものと認められる」としているところ、原審証人伊藤冨雄は原審公判で右鑑定書の内容をるる説明する中で、本件ジョイントの脱落は爆発後であることは間違いないとしながらも(七二回、七三回)、ジョイントの劣化はあまり進んでいないが、例えばコーキング作業に不十分なところとがあってガス漏れの道筋ができ、あるいは劣化の過程でガスの通り道ができた状態で地表に掘り出し、そこへ外力が加わったりしてその細い穴から少量のガスが漏れることがあるが、本件のように突然大量のガスがジョイント部分から噴出したのは、ジョイント部でガス管が圧力を受けかなりの長さ抜けてガスの通り道(隙間)が大きくなったためである。鉛とゴムのパッキングでジョイントが抜けるのを押さえているが、ガスが大量に漏れたということは鉛やゴムのパッキングが、管をこじたり捩ったりしたためピタッとひっつかない部分(隙間)ができてかなり劣化し、抜出し抵抗力が低下して抜止め作用がなくなり、ジョイントがかなり抜けたためである。劣化の程度が僅かであれば西側ジョイントは抜けなかった(七二回、七六回)。本件中圧管からの大きなガス漏れは、ジョイントがガスの内圧や外力によってゆるみ、抜けようとして突然ガスが大量に漏れたものである(七一回)。脱落はしなかったがパイプは動いた(抜けた)、しかし動いた程度は判らない(七三回)旨述べており、また伊藤鑑定書(第一回)は、三〇〇ミリガス管継手の引抜抵抗力等についての実験をしたうえ、結論として本件事故(ガス噴出)の主原因中に①中圧管水取器西側ジョイント(本件継手)に抜止めがなされていなかったこと②中圧管水取器西側ジョイント(本件継手)に挿入されていた中圧管(雄管)が鋼管であって、その管端にヤーン止めの突起が付いていなかったことの二点を挙げているのであって、これを要するに、伊藤冨雄証人は、右鑑定書、原審証言を通じて、爆発前に本件継手は脱落しなかったが、抜出しはあった。しかし抜出しの程度は判らない旨述べているものと理解することができる。伊藤鑑定書(第一回)の所論指摘部分についての伊藤証言をも含めた同鑑定書全体からみに趣旨は右のとおりであるから、右は原判決の判示ないし説示と全く同趣旨とまではいえないとしてもこれと矛盾するものではなく、すくなくとも所論を裏付けるものとはいえない。所論は採用できない。
(六) 本件中圧管のガス内圧の変動について
所論は、自記圧力計チャートによると、本件事故当日、ガス噴出前には1.27kg/cm2あった本件中圧管のガス内圧が、ガス噴出が始まったと思われる午後五時二〇分頃急激に低下して0.7ないし0.8kg/cm2となり、その状態を持続した後、ガス爆発時とみられる午後五時四五分頃から同五〇分頃までの間に0.4kg/cm2へと再び急激に低下している。もし当初からガス管が離脱したのなら、ガス内圧はその時点で一気に0.4kg/cm2まで下がるはずであり、また継手が徐々に抜けていってガス爆発前に離脱したとしても、その低下は連続的であり、中間に0.7ないし0.8kg/cm2の状態が一五分以上も継続するとは考えられず、ガス爆発時に爆風によって初めてガス管が離脱したとみるべきである、というが、
自記圧力計チャート二枚(<押収番号略>)、当審で取り調べた大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)取締役社長大西正文作成名義の「ガス噴出量を算出した導管網解析の資料」と題する書面(浮田町ガバナーなどの自記圧力計チャート写七枚を含む。以下「導管網解析資料」という。)並びに証人福森康文の原審及び当審各公判供述を総合すると、本件中圧管の自記圧力計チャートは、概ね所論のいうような変動を示しているところ、ガス供給事業者が、ガス需要の変化、導管工事に伴う管路閉止等に対し、ガスを常時安定して供給するため、ガスの流量、圧力を計算して把握する必要上、ガスの流量や圧力の計算を行うことを導管網解析というが、右導管網解析によりパイプの流量や節点の圧力を計算する場合、導管網、負荷、送出点の各状況につき一定の条件を想定し、コンピューターにより、一定の基本公式が全ての節点、パイプで成立するようなガス流量を求め、各点の圧力を算出する。この場合計算圧力と実際の圧力とがバランスしない場合には右想定条件を変えることを繰り返し、計算圧力と実際の圧力とが合うようになったときの流量をそのときの流量と推定するものである。そして自記圧力計チャート(中圧管浮田町ガバナーなど七枚)の記録を基にした右導管網解析の結果によると、一時間当たり2.5ないし三万立方メートルの都市ガスが噴出したものと推定され、また浮田町などのガバナーチャート圧力値が午後五時二〇分ころ大きく低下した後、午後五時四五分ころ再度大幅な圧力低下が見られるが、これはガス噴出量が一時間当たり約三万五〇〇〇立方メートルに増加したためであり、その原因は、中圧管が二一ないし三五ミリメートル抜け出していた状態で水取器両端の懸吊ボルトと噴出ガスの圧力とのバランスで保たれていたものが、爆発により着火した噴出ガスの火炎の熱のため、懸吊ボルトが切断され、水取器が地上に落下し、また覆工板の落下により、中圧管が破損したことなどから、開口面積がさらに大きくなったことによると想定されることなどが認められる。弁護人は当審弁論において、導管網解析におけるガス流量や圧力の算出は導管網内部におけるガスの流れが定常状態にあることが前提になっており、本件のように突発的に異常事態が発生し、出入バランスが崩れて未だ均衡を回復しない場合(過渡状態)に右方法を用いることは誤りであるというが、福森当審証言によると、高圧導管網(圧力が二五kg/cm2とか四〇kg/cm2とかの場合)のパイプラインの場合には定常状態の場合と過渡状態の場合とで計算方法を区別しなければならないが、一kg/cm2前後の圧力を問題にしている本件中圧管の場合には過渡状態と定常状態とで実用上計算結果に殆ど差がなく、定常状態として考えても問題ない、と認められ、右主張は根拠がなく、所論も採用できない。
(七) 鉄建建設の昭和五三年五月の実験結果について
当審証人小林正一(同証人の証人尋問調書添付の「管継手の変状と漏気の試験」及び「同写真九葉」を含む。)及び同丸尾茂樹の各公判供述によると、被告人らの雇主である鉄建建設株式会社(以下「鉄建建設」という。)において、市販の一二インチ(三〇〇ミリ)鋼管(雄管)と社内で製作した鋳鉄管(雌管)を使用して、雄管の外側と雌管の内側との間隙、引抜出し量、管内圧力を調整できる装置を製作のうえ、昭和五三年五月一一日、一二日の両日、管が抜け出さなくても隙間の大きさによっては本件のようなガス噴出がありうるかどうかにつき、(1)継手間隙量(管周全体に一、二、三ミリメートル)、継手抜出し量(一〇、三〇、五〇ミリメートル)、管内圧力(1.0、1.27、1.50kg/cm2)を組み合わせ変化させたときの管内流速及び単位時間当たりの漏気量の関係、(2)継手間隙量、継手抜出し量、管内圧力の組合わせを変化させたときの継手よりの漏気距離と漏気風速の関係、(3)漏気風速と砂質地盤の噴砂現象の程度、の三項目につき実験をしたところ、その結果、漏気流量に影響を与えるのは主として管の間隙であって、引抜出し量や管内圧力(特に前者)の影響は比較的小さく、そして管の継手に管周に沿って平均一ミリメートルの隙間を作って管内に圧力1.27kg/cm2をかけると、一時間当たり約七〇〇ないし九〇〇立方メートル、隙間を平均二ミリメートルにすると約二二〇〇ないし二四〇〇立方メートルの噴出量があり、また、右同様、管内圧力、管の間隙、引抜出し量を変化させて、管外に置いた砂の飛ぶ状況を観察したところ、噴き出し口から二ないし三メートル離れたところの砂が比較的よく飛んだ(しかし、噴出時音はせず、また、飛んだ距離は不明である。)などの事実が認められ、弁護人は当審弁論において、右実験結果を根拠に、ガス管が離脱しなくても、雄管と雌管との間に隙間が生ずれば、ガスが勢いよく噴き出すことがあること、しかも、管の引抜出し量はあまり関係ないことが判明した、と主張するが、右実験の前提条件に疑問がある(例えば、実際の継手では管周一様に間隙があったという前提が疑問であり、仮にそうだとすると、間隙が一〜二ミリメートル程度であっても雄管が抜出しを始めるのではないかとも考えられる。)のみならず、間隙三ミリメートルの場合でも、その際のガス漏出による周辺の砂盛りの飛散の程度は砂ぼこり程度というのであって、果たして、本件ガス爆発前の激しい噴出状況(前示(一)における関係者の各目撃供述参照。)を説明できるものか極めて疑わしく、また右実験結果からはガス内圧が1.27kg/cm2から0.7ないし0.8kg/cm2に急激に低下したことが合理的に説明できるか疑問があり、本件ガス噴出(漏出)は本件継手にガス道が生じたためであるとの所論を裏付けるものとはいえない。
(八) 橋口当審鑑定書等について
弁護人は当審弁論において、本件爆発事故時の一時間当たりの都市ガス推定噴出量は、原判決が2.5ないし三万立方メートルと認定したのに対し、約二五二〇立方メートルから約六七二〇立方メートルの間である、とした当審証人橋口幸雄の公判供述及び同人作成の平成元年五月八日付鑑定書(以下「橋口当審鑑定書」という。)は、右鉄建建設の実験結果が正当なことを裏付けているとし、当審で取り調べた倉岡悦子、水谷節子、太田道彦の各員面調書などを根拠に、本件ガス噴出開始時刻は午後五時直後ころであり(したがって、噴出開始から爆発まで約四五分間であるとする。)、また右橋口当審鑑定書の鑑定結果は、爆発時における坑内滞留ガス量を出発点として二五分間の噴出量を基にして一時間当たりの噴出量を計算したものであるから、二五分を四五分として計算し直すと、一時間当たりの噴出量は一四〇〇ないし三七三〇立方メートルとなり、他方前示鉄建建設の実験結果、即ち、管内圧力1.27kg/cm2の場合管周間隙が一ミリメートルの場合で一時間当たりの噴出量が七〇〇ないし九〇〇立方メートル、間隙が二ミリメートルの場合一時間当たり二二〇〇ないし二四〇〇立方メートルであるが、実験に用いた気体は都市ガスではなく空気であり、噴出量は概ね気体の比重の平方根に反比例するからこれを都市ガスの場合に換算すると(都市ガスの空気に対する比重はほぼ0.5)、噴出量は間隙一ミリメートルの場合一時間当たり約一〇〇〇ないし一三〇〇立方メートル、二ミリメートルの場合約三一〇〇ないし三四〇〇立方メートルとなり、右実験における管周間隙一ないし二ミリメートルの場合に相当する間隙が本件継手の雄管と雌管との間にできていたと推定され、右程度の間隙は、雄管が雌管が抜け出すまでもなく、継手部のヤーンや鉛の変状により気密性が衰えるだけでも十分発生しうるとして、本件ガス噴出は本件継手部の抜出しによるものでない旨主張するが、右橋口当審鑑定書は、本件事故による覆工板の飛散状況等や掘削溝内のガス濃度の分布の推定から一時間当たりの本件ガス噴出量を推算したものであるところ、特に多い目に見た場合の噴出量であるという一時間当たりの噴出量約六七二〇立方メートルの推算の方法については、大要次のとおりである。即ち、ガス噴出から爆発まで二五分間かかったことを前提にしたうえ、橋口当審鑑定書添付図―2(原審で取り調べた上原陽一作成の鑑定書添付の図―13を引用したもの)の噴出一分後のガス濃度分布が本件覆工板の飛散状況等の被害状況に近いので、これが爆発当時のガス濃度分布であったと仮定し、そのときの坑内の平均都市ガス濃度は23.8%であり(推定)、坑内体積は10005.6立方メートルであるので、爆発時の坑内推定都市ガス量は二三八一立方メートルとなる。坑内に流出した都市ガス量と同一量の混合ガスが掘削溝表面開口部から流出するが、単位面積当たりの流出速度は掘削溝全域にわたりほぼ同一と推定される。ある時刻に掘削溝から流出する混合ガス中の都市ガスの割合は掘削溝表面下部に滞留している高濃度(八〇%とする。)の都市ガスの表面開口面積に比例するとして推定できる。①濃度分布図で掘削溝表面下側に高濃度の都市ガスが存在する部分を掘削溝西側より鉄建建設ホッパーまでとし、その部分の表面開口面積の全表面開口面積に対する割合を四〇%と(仮定)する。②高濃度の都市ガスが滞留している部分の表面開口面積は、ガス噴出後二五分で時間の経過に比例して四〇%まで広がった(したがって二五分間を通じて平均表面開口面積は二〇%となる。)と仮定する。③表面下側に滞留している高濃度都市ガス部分から地上に流出する混合ガス中の都市ガス濃度は、八〇%であると仮定する。以上の仮定のもとに計算すると、二五分間に掘削溝外に流出した都市ガス量は、流出した全混合ガス量の二〇%のさらに八〇%、即ち一六%に相当する。二五分間に掘削溝内に噴出した都市ガス量を二八〇〇立方メートルと仮定すると、同時間内に同量の混合ガスが坑外に流出し、うち一六%が都市ガスであるから、坑内に滞留する都市ガス量は、二八〇〇立方メートルの八四%、即ち二三五二立方メートルで、前示二三八一立方メートルに近似する。そこでこの二八〇〇立方メートルを一時間当たりの噴出都市ガス量に換算すると、六七二〇立方メートルとなる、というのであるが、右推論は多くの仮定、推定を重ねているうえ、右仮定、推定をした計算の前提となる各数字に妥当性があるかどうかに疑問がある、換言すれば右各数字の誤差の範囲が不明であり、少なくもこの数字を上回ることはないとの点について納得できる説明がなく、また開口部分から坑外へ出る混合ガスの流出速度にガス噴出口に近い西方と遠い東方とで差があるとみられるのにこれを否定している(本件掘削溝内を密閉器内と同様にみるのは相当でない。)ことなどからみて、前示導管網解析に基づくガス噴出量算出の妥当性を否定しうるものとはいえず、右主張も根拠がない。
4 本件ガス噴出のメカニズムについて
所論は、本件ガス噴出のメカニズムは次のとおりである。即ち、昭和三七年のガス管埋設時の初期に、本件水取器西側継手につながっている管(雄管)が二度七分ないし三度一一分の角度をもって下方に曲げられ、このため鉛が塑性変形を受けて内部にかなり大きなガス道が生じ、右ガス道から本件ガス漏れを生じたのである。ガス道が生じていたにもかかわらず、本件事故に至るまでガス漏れを生じなかったのは、それまでゴム輪によって辛うじてその気密性が保たれていたためであるが、本件水取器を懸吊した後で下方に曲げられていた管を復元しようとする力が働き、そのため劣化していたゴム輪になんらかの異変が生じ、本件ガス漏出に至ったものである、というのであるが、関係証拠によると、原判決が「説明」中の「第三 本件継手の締結力に欠陥をもたらした原因」の「一 初期性能の欠陥について」の項において説示するとおり、昭和三七年五月の埋設時に本件中圧管は五〇〇ミリ低圧管との交差部において一〇ないし一五センチメートルの間隔を置くように敷設されながら、その後短期間内に沈下して接着してしまった疑いが十分あり、したがって、そのころ本件継手(水取器西側)の雄管は、所論のいうほどではないにしても(土の支持力等により、右交差部における本件中圧管の沈下距離がそのまま北角における沈下距離になるわけではない。)、ある角度をもって下方へ曲げられることになることは、所論のいうとおりである。しかしながら、本件ガス漏れ(噴出)の直接的原因が右曲げに基づく鉛の塑性変形により生じたガス道によるものであるとの点については、前示のように原判決が「説明」中の「第二 ガス噴出の直接原因」の「四 まとめ(ガス噴出のメカニズム)」の項において①ないし③の理由を挙げて適切に排斥しているとおりである。所論は、右各理由は原判決の説示の根拠となしえない、というがいずれも採用できない(特に①、③については、前示各所論に対して説示したとおりである。)。なお、ゴムの劣化(一般的な意味での性能低下の点は別として)については、これを認めるに足る証拠がない。もっとも当審で取り調べた「ガス工業下巻」(写)八九頁によると、ベンゾールの含まれた石炭ガスの場合、ゴム輪が軽油を吸収して膨張し、膨張したゴムのはみ出る隙間があると、そこからゴムがはみ出し、ゴム輪が崩れて気密力を失う、とされているが、福森当審証言によると、問題となった昭和四〇年前後(昭和三七年五月ころから同四五年四月ころまでの意味に解される。)当時は、大阪ガスの都市ガスにはベンゾールは殆ど含まれていないことが認められ、この点でも所論は根拠がなく、所論は、採用できない。
5 まとめ
その他所論にかんがみさらに検討しても、本件ガス漏れ(噴出)の直接の原因は本件継手の抜出しである、と認定した原判決に所論の事実誤認はなく、論旨は、理由がない。
二本件継手の締結力に欠陥をもたらした原因について
1 主張の要旨
論旨は、仮に本件ガス漏れ(噴出)の直接原因が本件継手部ガス導管の離脱又は抜出しであるとしても、その原因は専ら本件ガス導管埋設時の初期性能の欠陥にあるのに、本件継手の締結力に、初期性能の欠陥があった可能性はある程度高く、その存在を否定できないとしながら、それはあくまで可能性に止まり、そのような欠陥があったとまでは断定するに至らず、その程度を定量化することも不可能であるとし、さらに、本件継手の締結力に重大な欠陥が生じた原因として「交通荷重による経年劣化」、「地下鉄工事の影響」を挙げる原判決は、抜出しの原因を誤認したもので、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
2 初期性能の欠陥について
(一) 総説
原判決挙示の関係証拠によれば、昭和三七年五月のガス導管横断部の敷設工事及びこれに際して行われた本件継手の接合作業状況は、原判決別紙三「昭和三七年当時の本件中圧管等横断部付近のガス導管敷設工事の状況」に記載のとおりと認められる。右工事状況並びに四六・六・二九付栗川末雄の検面調書、原審証人中村浅吉(五八回、六三回)及び同西端禧雄(二七回)の各公判供述などによると、原判決が①元々コーキング作業はばらつきを生じやすいうえ、本件継手の接合作業は、管端から約2.7メートルのところに約1.5メートルの立上り部分(その重量は約八八キログラム)がある鋼管を水取器の承け口に差し込んで行うというかなり特殊なもので、大量の作業の一環として夜間短時間という時間的制約を受けながら行われた本件継手のコーキング作業は、熟練工によって行われたとはいえ、当初から継手に所期の強度を持たせることができなかったのではないかとの疑いが持たれること。②敷設作業に際し管下やその周囲の土砂がかなり広く深く掘削されたと窺えるうえ、右接合作業後、配管敷設工事終了時までの管に掘返しと埋戻しとが何度も繰り返され、その間地上の交通荷重を受けて、一旦敷設された管の部分が変位を来して本件継手の締結力に劣化を与えた可能性があること。③昭和三七年五月末ころの工事完了後も長期間地面は本舗装されず、しかも埋設深度の極めて浅い低圧管はこの間防護工のないまま放置されていたため、工事完了後も度重なる地上交通による輪荷重、振動の影響を受け、比較的早期に本件継手の締結力の劣化が促進された疑いが持たれること、さらに、右②③に関連して、新設時に一〇ないし一五センチメートルの間隔をおいて埋設された本件中圧管と低圧管とが、本件事故当日午前中及び午後三時半ころから同四時過ぎころに交差部で密着していることが認められ、さらに遡って昭和四四年一〇月一九日に右交差部等を試掘した際、両管が接着しているかのような状況が観察されていること、本件事故当日右接着が確認された際の両管の塗料の状況、本件継手の接合作業の行われた昭和三七年五月二五日に右交差部に入れた枕木が同月二八日抜去されていること等からすると、両管は昭和三七年五月末ころの工事完了時ころまでか、これに引き続く比較的短期間に接着した疑いが十分あり、もし接着したとすると、鋼管であることや土砂の支持力等を度外視した場合本件継手には計算上下曲げ角度二度一五分位の捩りモーメントが加えられることになり、大阪ガスの継手実験の結果によると、鋳鉄管と鋼管とを接合した供試体六個につき1.5度、二度または四度の下曲げ角度を与えた場合継手の性能は二分の一程度に低下することなどの理由を指摘し、右ガス導管横断部分の敷設工事及び本件継手の接合作業のときないしこれに引き続く比較的早期の段階で、本件継手が所期されたところよりもかなり程度が低いという欠陥(所期性能の欠陥)が存した可能性はある程度高いが、それはあくまで可能性に止まり、そのような欠陥があったとまでは断定するに至らず、その程度を定量化することも不可能である旨説示している点は相当であり、当審における事実取調べの結果によっても右認定は左右されない。
(二) 補足説明
所論は、本件中圧管の埋設工事が粗雑であり、本件継手の初期性能に欠陥が存したことは、以下の事実から明らかである。即ち、
① 埋設工事が行われた場所は市電が通っていたところであるから、終電が通過してから初電が来るまでが工事時間であり、その限られた時間内に狭い掘削溝の中で溶接やコーキングが行われたのであるから、実験室でされるような理想的なコーキングができたとは考えられない。
② ヤーン止めがなかったためヤーンや鉛を十分にたたき込むことができなかった。
③ ガス管のような重い物を埋設する場合には、管下の土砂を水締めなどして十分締固めすべきにかかわらず、埋戻しの際十分な締固めがされなかった。
④ 当初の埋設計画(四五度越し)を変更し、九〇度で屈折し法定未満の深度で埋設したことからみて仮設工事として実施した疑いがあり、このことからも初期性能に欠陥があったと考えられる。
というが、
①については、本件ガス管移設工事に関与した原審証人松葉瀬勉(四八回)、同川口善洋(四八回)及び同岡康宏(四九回)の各公判供述によると、コーキングを含む本件移設工事は、大阪ガスの下請会社の従業員によって行われたが、特にコーキング作業は大阪ガスの認定した有資格者によるもので、作業に格別手抜かりはなく、工事完了後大阪ガスの検査係による二四時間の気密検査と中圧管、低圧管ともそれぞれ四、五箇所ずつの抜取り(抜打ち)検査(指示された箇所を掘り返して作業結果のチェックをするもの)を行い、それらに合格し、後日大阪ガス管理係から工事係へのクレーム等もなかったことなどが認められるが、それにもかかわらず、原判決は、コーキング作業の困難さ特に本件コーキング作業自体の特殊性(困難さ)、夜間短時間という時間的制約等からみて、所期の強度を持たせるに十分なコーキング作業が行われたか疑問がないとはいえないとし、後示③の点などを含めて検討したうえ、本件継手の初期性能に欠陥があった可能性は高いが、欠陥があったとまでは断定することはできない、というのであって、右説示に誤りがあるとはいえない。
②については、本件継手の雄管にヤーン止めがついていなかったことは、所論のとおりであり、伊藤鑑定書(第一回)四一頁には、ヤーン止めがついているとコーキングの際ヤーンが奥へ押し込まれるのを防ぐことができる旨の記載があり、また原審証人西中利雄(四五回)は、ヤーン止めがあると力強く巻けるのと、鉛コーキングの場合力一杯いけるので非常にはずれ難い旨述べているが、同時に右西中証言は、特に中圧管のコーキングは優秀なコーキング工にさせるので、ヤーン止めがなくともあまり関係がない旨をも付加して述べていることなどに徴すると、ヤーン止めがなかったことは、鉛を十分にたたき込めなかったなどコーキングの不十分さをもたらし、ひいては本件継手の初期性能の欠陥をもたらした可能性がないとはいえないが、欠陥の存在を断定しうるものとはいえない。
③については、原審証人松葉瀬勉の供述(四八回)によると、埋戻しの際はダンプカーで山砂を入れ、それを転圧(埋めた砂を固める機械でいわゆるローラーをかける。)し、砕石その他を入れて埋め戻していた、というのであり、その際十分な締固めがなされていなかったとしても、それが初期性能の欠陥にどの程度影響を与えたかそれを定量化することは不可能である。
④については、当初四五度で横断する計画であったのが、九〇度横断に変更され、横断部には法定未満の深度で埋設したところがあることは所論のとおりであるが、前示原審証人西中利雄の公判(四五回)供述によると、右横断部は都市計画により将来撤去されることになっていたが、撤去の時期が不明であり、本工事として完工したことが認められ、他に所論を裏付ける証拠はない。
したがって、右各所論を考慮しても、本件継手の初期性能に欠陥があった可能性はかなり高いが、その存在を断定することはできないとした原判決の説示に誤りは認められず、本件継手の締結力の初期性能に欠陥があったと断定し、かつ右欠陥のみが専ら抜出しの原因であるとする所論は、採用できない。
3 交通荷重による経年劣化について
(一) 総説
原判決挙示の関係証拠によれば、原判決が「説明」第三の二「交通荷重による経年劣化」の項で詳細に認定するところは相当である。即ち、昭和三七年五月本件横断部に鋼管が敷設後も数年間地上は本舗装されず、本舗装後も幹線道路にある本件横断部地上は、昭和四五年二月の覆工当時まで多数の自動車が通過し(大阪ガスの事故原因調査グループの調査によると、昭和三七年六月から同四五年四月までの約八年間に積載物のある大型車両が横断部の浅い部分を通過した回数は約八〇万回と推定される。)、また、横断部における地表面から管頂までの最浅深度は本件中圧管が五〇ないし六〇センチメートル、低圧管が一〇ないし二〇センチメートルに過ぎず、交通荷重の影響をきわめて受けやすい状態にあり、またそれぞれに設けられた防護工は、管全体に働く交通荷重の影響をさほど緩和するものではなかったため、この交通荷重は、各導管に対し振動(弾性沈下)ばかりでなく、管下の土砂の状態や各横断部北角以東の部分との埋設深度の違いから、横断部を中心とする不等沈下(塑性沈下)をもたらしたことが認められる。右事実によれば、本件継手が、横断部から一本の鋼管になっているその第一継手であるため、右継手に対し、右振動は繰り返し曲げとして、右塑性沈下は恒常的な下曲げ角度となって作用し、いずれも本件継手の性能(締結力の強度即ち引抜抵抗力の大きさ)に悪影響を及ぼしたことを優に推認することができる。昭和三七年五月の本件継手新設後両ガス導管の横断部地上を長年にわたり通過した多数車両による交通荷重が右継手の性能低下に与えた影響は大きく、このうち初期性能の欠陥の中に含めて考えた管敷設工事当初のものを除きその後の分だけでも、交通荷重による継手性能の経年劣化の存在は確実である。ただし、その劣化の程度を定量的に確定することは不可能である旨の原判決の説示に誤りはなく、当審における事実取調べの結果によっても右認定は左右されない。以下、所論にかんがみ二点につき補足して説明する。
(二) 本件継手の強度について
所論は、交通荷重により本件継手が劣化する可能性のあることは否定できないとしても、原判決挙示の伊藤鑑定書(第一回)(実験結果)によると、本件継手のように、鋼管と鋳鉄管よりなるガス型継手の場合、その接合初期においていは約九トンという相当強度の引抜阻止力を有することが認められ(他方、同鑑定書には本件継手が埋設後約八年にわたり交通車両等により繰り返し荷重を受け、劣化していた旨記載されているが、引抜阻止力がどの程度低下したかは明らかにされていない。)、また金山正吾作成の実験結果説明書(二通)及び大阪ガス事故原因調査グループ作成の実験報告書によっても、通常のガス管継手は埋設中に車両荷重による影響を受けたとしても、なお相当の強度を有することが明らかであり、継手に初期性能の欠陥がない限り中圧管継手の締結力が経年劣化によって一トンという内圧以下に低下することはありえない、というが、
伊藤鑑定書(第一回)には、①本件事故現場から採取した中圧管用の鋼管とソケット付鋳鉄管とをコーキングして接合のうえ実験測定すると、約八トンの引抜力で抜出しを始め、以後それ以下の水圧(引抜力)で抜出しを続け、ついに多量の漏水と雄管の離脱を来し、②本件事故現場から採取した中圧管用ソケット付鋳鉄管と本件事故現場にはなかった別の鋼管とをコーキングして接合のうえ実験測定すると、約九トンの引抜力で抜出しを始め、そのまま抜出しを続けて雄管の離脱と多量の漏水を生じたとあり(同鑑定書三二・三三頁)、また、金山正吾作成の昭和四五年一一月二四日付実験結果説明書には、くり返し荷重等を受けていない正規の継手(受け口側はガス型ダクタイル鋳鉄管、さし口側は配管用炭素鋼管)の引抜抵抗力は、機械による引抜試験の場合5.28トンないし7.8トン(六回の測定で平均値は6.52トン)であり、水圧による引抜試験の場合は、5.05トンないし6.60トン(三回の測定で平均値は6.10トン)であって、本件継手のように、鋼管と鋳鉄管よりなるガス型継手の場合、その接合初期において本件中圧管の内圧約一トンの五ないし九倍に相当する相当強度の引抜抵抗力を有するとあるが、他方伊藤鑑定書(第一回)には、①第四工区内の中圧管のうち、曲管部とそれ以東の部分は昭和三七年一月から五月の間に移設(新設)されたものであるが、曲管部南角付近以西は昭和六年に埋設されたものであるところ、新たに埋設された部分の交通荷重による沈下は以前に埋設された部分の沈下より大きく、かつ、曲管部及びそれ以東の部分の道路は、右埋設後も昭和四〇年一一、二月まで本舗装されず、さらに中圧管の形状が曲管部を含む複雑なものであるため、本件継手に捩りなどの悪影響が繰り返し作用したと認められる。②本件中圧管、低下管とも横断部は立体的にも湾曲していて両管とも横断部中央付近及び北寄り部分は埋設深度が浅く、かつそのため防護工が施されていたが、それが横断部に加わる交通荷重を軽減させる効果は殆どなく、したがって、一本の鋼管から成る中圧管曲管部を通じて、その東端に連なる本件継手に曲げるが集中的に作用したはずである、などのため、本件継手が、昭和三七年の新設以来約八年間、本件中圧管曲管部以東を地上の交通車両等によって繰り返し荷重を受け、そのため劣化(緩んでガス漏れを生じやすい状態にあったこと)したことが、本件事故発生の原因の一つであると認められる。しかし、本件継手が埋設以来受けた悪影響を定量的に把握することは不可能であり、さらに、本件事故発生直前まで本件継手の劣化を示唆するような証拠が見当たらないから、劣化の程度は解明不可能である、などとあり(同鑑定書二四〜三〇、三四・三五、三九・四〇頁)、また、右鑑定書の内容につき説明する伊藤原審証言は、「本件中圧管は九〇度に曲がり、また低圧管や関電ダクト、電々ダクトなどを跨ぐため立ち上がりさらに下がるといった複雑な構造をしていて、これらの横断部が下がると本件継手が捩れたり、曲がったりする。また、(横断部の)埋設深度が浅いので、地上を通る車両の影響を大きく受ける。昭和三七年五月埋設後約八年間、交通量の多いところだから、その影響を受けないことは絶対ない。防護壁があったが、ちゃちなもので、効果は非常に少ない」、「横断部が複雑な形をしていて、本件継手が長年にわたり繰り返し輪荷重を受けて劣化し、抜け出しやすい状態になっていた。土を掘り出すとガスの内圧がそのまま引抜力として働き、前からある劣化したという素地のため突然(抜け出し)大量に噴出したと考えられる」、「継手部が振動等により曲げや捩りを受けると、鉛が塑性変形し、抵抗力が弱くなり、劣化して抜け出しやすくなる」、「交通荷重は、元へ戻る沈下(弾性沈下)と戻らない沈下(不等沈下)の両者をもたらし、埋設深度の浅いガス管は深いガス管より沈下(両者とも)が大きい」、「本件事故発生直前に本件継手は約一トンの内圧にも耐えられないような状態にあったことは間違いないが、劣化の程度は判らない」などと述べており(七一回、七二回、七四回)、さらに金山正吾作成の昭和四六年四月付実験結果説明書(その2)によると、前回同様の供試体を使用して継手に五〇万回ないし一〇〇万回のくり返し荷重(曲げと捩り)を与えたうえ引抜試験を行ったところ、四八パーセントないし八八パーセント(七回の測定)の引抜抵抗力の低下がみられたとあり、原判決も指摘する本件中圧管の敷設場所、配管状態、横断部の埋設深度等、既設管との関係及び長年多数回の交通荷重を受けたことなどの諸情況、右各実験ないし鑑定結果(伊藤証言を含む。)等を総合すると、長年月にわたる多数車両による交通荷重が本件継手の性能低下に与えた影響は無視できず、初期性能の欠陥の有無、その程度にかかわりなく、交通荷重による継手性能の経年劣化の存在は確実であり、これと同旨の原判決の認定には誤りは認められない。所論は採用できない。
(三) 大阪ガスの事故原因調査グループの実験について
所論は、原判決が、本件中圧管の交通荷重による塑性沈下及び弾性沈下にともなう本件継手の性能劣化の程度は、そのガス内圧(1.27kg/cm2)に比し、なお数倍の安全率を保持させる程度のものにとどまると結論づけた大阪ガスの事故原因調査グループによる実験について、①管下に置いた枕木の高さ九センチメートルに相当する部分にある埋戻し砂が圧縮沈下する範囲でしか管の塑性沈下が起こらないとしていること、②初期性能の欠陥が存在する可能性を無視していること、③五〇〇ミリ低圧管横断部に対する交通荷重の影響を無視していることの三点をあげて右実験結果には疑問があるとし、「昭和三七年五月の本件継手新設後両ガス導管の横断部地上を長年にわたって通過した多数の車両による交通荷重が右継手の性能低下に与えた影響は無視すことがないと考えられる」としているが、要するに、②においては初期性能の欠陥の存在を、①と③においては、管埋設時における工法上の過誤にもとづく初期性能の欠陥を生じた事情を説明しており、このことは、初期性能の欠陥がない限り大阪ガスの実験が示すように埋設期間中の交通荷重のみによっては、本件のような著しい欠陥が生じないことを肯定していることになり、したがって、本件継手が異常なく施工されている限り、路面荷重等の繰り返し荷重による経年劣化だけによって継手部が突如として抜けるほど大きく引抜阻止力が低下するということはありえないから、本件中圧管水取器西側継手からなんらの前ぶれもなく、突如として大量のガスが噴出したのは、昭和三七年埋設時に存在した継手の欠陥によるものであり、その後の車両荷重による影響は本件継手の締結力の低下と因果関係は存しない、というが、原判決は②において初期性能の欠陥の存在の可能性を、①③において管埋設時における工法上の過誤にもとづく初期性能の欠陥を生じたかもしれない事情があったことを指摘し、これらを考慮に入れていない右実験結果には疑問がある旨説示したに止まり、「初期性能の欠陥がない限り大阪ガスの実験が示すように埋設期間中の交通荷重のみによっては、本件のような著しい欠陥が生じないことを肯定している」わけではないから、所論は前提を欠き、採用できない。
4 地下鉄工事の影響について
(一) 総説
原判決挙示の関係証拠によれば、原判決が「説明」第三の三「地下鉄工事の影響の有無」の項で鉄建建設が行った地下鉄工事の影響の有無等について、①横断部付近地表の掘削、埋戻し、②横断部北角付近のすかし掘り、③中圧管に対する外力の作用を挙げて詳細に認定するところは相当である。即ち①について、鉄建建設は、昭和四四年一〇月一九日ころ以後同四五年二月一一日の両ガス導管横断部付近の覆工作業完了までの間に、試掘、両管横断部中間杭打設及び覆工作業のため右横断部付近を掘削しては埋め戻し、ことに覆工作業に際しては中圧間及び低圧間に設けられていた各防護工を撤去したりした事実が認められるところ、この間における地上交通は従前と変わりなく、その単位台数あたりの荷重が管及び本件継手の性能に与える影響は、右のように掘削、埋戻し及び防護工の撤去がされているため、それ以前に比してより大きくなり、その影響の程度を定量化することは不可能であるが、本件継手の性能劣化をより大きくした可能性があることは否定できない。②について、本件事故当日四月八日午前中に中圧、低圧両管の横断部北角付近管下の土砂を未懸吊のまま一気に除去したことが認められるところ、当時すでに、中圧管は、その北角から一メートル余以南及び約2.5メートル以東が、低圧管は、その北角から0.5ないし0.6メートル以南及び三メートル余以東がそれぞれ懸吊ずみであり、これら懸吊ずみの部分については各導管の高さがそれ以上下がらないよう懸吊ボルトで固定されていたから、右すかし掘りをしたからといって、必ずしも両管の位置(上下関係)に変位を生じるとは思われないが、(1)右のようなすかし掘りによって両管とも四メートル近くにわたって未懸吊のまま宙吊りになったこと、(2)両管ともその間で水平方向九〇度に屈曲しており、屈曲部分が突き出た形になった(ただし屈曲部分はいずれも懸吊ずみのところから近い。)こと、(3)しかも、いずれもその間に立上り部分があって重量が集中している(ただし、立上り部分はいずれも懸吊ずみのところに接している。)ことを考えると右すかし掘りしたことが付近の管の懸吊状態ひいては本件継手の性能にまったく影響がなかったとまでは言い切れない。③について、四月六日本件継手が露出、宙吊りになったころ以後も西方に向かって掘削作業が進められていたから、本件中圧管水取器付近の中圧管に外力が作用し、管に動揺を与えれば、その動揺は右継手に悪影響を及ぼし、その締結力を劣化させることが考えられるところ、このような外力を与える可能性があるものとして、(1)土砂掘削に用いられた小型ブルのバケットの接触、(2)その掘削に際しての土砂崩落の影響などを想定できる。そして(1)について、原判決は、原審相被告人Gに対する起訴事実については、そのような事実があったとは認められないとしたが、鉄建建設は作業の能率を挙げるため、三月一五日原判示の小型ブルを、同月一七日には同中型ブルも坑内に導入し、昼夜兼行で掘削、埋設物下の土砂採り、その搬出作業に使用していたから、この間に小型ブルのバケットが管に接触したりした事実がまったくなかったとは言い切れず、(1)(2)について、外力が水取器等本件継手部に直接作用したときは勿論、管の継手から離れた部分に作用した場合でも、これによる振動が本件継手部にくり返し曲げとなって現れ、継手の締結力を劣化させる可能性があることは否定できないところである。以上とほぼ同旨の原判決の説示はこれを是認することができ、当審における事実取調べの結果によっても右認定は左右されない。以下、所論にかんがみ①ないし③に分けて補足説明する。
(二) 横断部付近地表の掘削・埋戻しについて
所論は、①について、右各工事は、その内容及び施工方法からみて本件継手の性能劣化をより大きくする可能性は存せず、殊に防護工の撤去については、中圧管には防護工は存在しなかったのであり、また定量化の不可能な影響を基にして関係者の刑事責任を追及することは不当である、というが、
関係証拠によれば、原判決の説明第一の三の「(三)工事経過等」及び原判決別紙二「地下鉄工事経過の詳細」の項記載の事実を認定できるところ、これによれば前示のように相当長期間にわたる右横断部付近の掘削、埋戻しのほか覆土作業に際しては中低圧両管の防護工を撤去しており、その間における地上交通は従前と変わりがないから、この交通荷重が比較的深度の浅かった両管及び本件継手の性能に与える影響は、それを定量化することはできないものの、それ以前に比してより大きくなっていた可能性は否定できず、所論は採用できない。なお中圧管の防護工は存在しなかったとの所論について検討するのに、本管カード(中圧管)三枚の一枚目に三〇〇ミリガス導管の防護工の図示があること、原審証人川口善洋(四八回、五〇回)は「設計変更して三〇〇ミリ、五〇〇ミリガス導管が本件横断部において水道管等を上越し施工することになり三〇〇ミリガス導管のベンド部が地表面から浅くなるので、鋳鉄管を強度の強い鋼管に替え、さらに上司から防護工をするよう指示があったため、下請の中井組の責任者にその設計図を書いて渡し防護工を施工した。作業日報で右施工がなされていることを確認し、施工後現場で、上からボーリング・バーで突いてみると防護工の蓋のような固いものがあった。これまで防護工施工の経験がなかったので、設計図は上司の吉川から教わって書いた」旨、同西中利雄(三八回、四五回、四六回)は「ガス導管が上越しに設計変更され、深度が浅くなったため、ガス導管防護のため防護工を施工した。作業日報及びこれに基づいて作られる本管カードで三〇〇ミリガス導管に防護工が施工されていることを確認し、当時現場の担当責任者川口らや中井組の責任者からも施工したと聞いている。車道で埋設深度が浅いときは必ず防護工を施工している」旨、栗川末雄は前示検面調書で「昭和四四年九月末か一〇月初めごろ、本管カードを一枚ずつ丹念に調べて三〇〇ミリガス中圧管の横断部分は土被りが浅く、防護工が施工してあることを知った」旨各供述していること、さらに原審証人中村浅吉(五八回)は同人作成の四五・五・三付「ガス導管保護状態(側面図二枚、断面図一枚)」につき、一部取り壊したときの経験をもとに想像を交えて書いたもので正確なものではないとしながらも、二枚目、三枚目の三〇〇ミリガス導管の防護工の蓋(上板)の厚さ約七センチメートル、モルタルコンクリートの記載につき、一部あったのでそれに基づいて元はこんなものだったろうと思って書いた」旨供述しており、右三枚の防護工の図面には三〇〇ミリガス導管の防護工と五〇〇ミリガス導管のそれとの構造上の違いを明確に区別して図示していること(なお同人は四六・六・三〇付検面調書でも、二月七日三〇〇ミリガス導管横断部の防護壁除去作業について具体的に供述している。)などを総合すると、三〇〇ミリガス導管についても防護工が施工されていたと認めるのが相当である。これに反する前示中村浅吉(六三回)及び原審証人西端久禧雄(二二回)の各供述は、前示各証拠に照らし信用できず、同松葉瀬勉(四八回)及び同岡康宏(四九回)の各供述をもってしては右認定を左右するに足りない。所論は採用できない。
(三) 横断部北角付近のすかし掘りについて
所論は、②について、原判決は、その前段で「北角付近のすかし掘りをしたからといって必ずしも両管の位置(上下関係)に変位を生じるとは限らないと考えられる」旨正当に判断しながら、後段で「北角付近をすかし掘りにしたことは工法として非難に値するのは当然であり、また付近の管の懸吊状態ひいては本件継手の性能にまったく影響がなかったとまでは言い切れないが、右影響が現実にあったと証拠上認めることはできない」旨説示したが、右前段と後段の各説示を総合すると、すかし掘りをしても付近の管の懸吊状態ひいては本件継手の性能にまったく影響がなかったと認定すべきであるし、また両管の位置に変位を生じていないのであれば、それは技術上何らの問題はないのであるから工法上非難に値するものではない、というが、
関係証拠によると、ガス導管の懸吊作業に当たっては、その継手部等に曲げ、捩りなどが生じないように埋設時と同じ状態で懸吊する必要があるため、ガス導管の上半分が露出するまで手掘した後、ガス管の下部に懸吊バンドを通すのに必要最小限度の穴を掘って、いわゆる「狸掘り」して懸吊するのが一般的工法とされていたところ、本件四工区工事においは、必ずしもこの「狸掘り」が遵守されていなかったことは前示原判決別紙二の認定事実に照らし明らかであるから、北角付近をすかし掘りしたことは工法として非難に値するとした原判決の説示は正当であるし、また、前示原判決「別紙二 地下鉄工事経過の詳細」、特に「四 掘削、ガス導管の懸吊など」、「五 昭和四五年四月初めから四月八日までの作業状況等」(一)ないし(七)の作業内容に照らすと、四月八日朝中・低圧両管の横断部北角付近の懸吊に際しては、その管下の土砂を未懸吊のまま一挙に除去し、午前一一時ころには約四メートル近くが未懸吊のまま宙吊り状態になったことが認められるところ、本件中圧管は一メートル当たり約58.6キログラムの重量の鋼管であるから、これが本件継手に曲げや捩りを与えるなどその性能に全く影響がなかったとはいえず、これと同旨の原判決の説示は相当であり、所論は採用できない。
(四) 中圧管に対する外力の作用について
所論は、③のうち、(1)について、「他にも小型ブルによる掘削作業が行われているのであるから、この間に小型ブルのバケットが管に接触したり事実がまったくなかったとは言い切れない」と認定している点は全く証拠に基づかない認定であり、(1)(2)について(所論は、(1)について明示的に挙げていないが、これも含まれるものと解する。)、少なくとも、埋設管付近は五〇センチメートル以上手掘作業により掘削し、埋設管と土砂の縁切りをしたあとで機械掘削をし、仮に機械やスコップ等の道具が埋設管に接触したとしても、埋設管は掘削した部分は懸吊ボルトにより懸吊され、未掘削部分は土中に埋まっているから、その振動が本件継手部にくり返し曲げとなって現れ継手の締結力を劣化させる可能性はない。さらに原判決は、「初期性能の欠陥及び交通荷重による経年劣化の存否ないし程度が小さかったものとすれば、右の工事中の外力の作用があったのではないかと想定せざるを得ない」と説示するが、本件ガス噴出の原因は、本件継手の初期性能の欠陥にあるのであり、右初期性能の欠陥の小さかったことを前提として工事中の外力の作用を想定することは誤りである、というが、
(1)については、原判決が原審相被告人Gの関係で説示するように、薦田清夫及び荷福正夫の各検面調書の信用性はこれを認めることができず、また、原審証人である右両名の各証言をもってしても、そのころ(日時はともかく)小型ブルのバケットが三〇〇ミリ管に当たったと認定することは困難で、他にこれを認めるに足る明白な証拠はないが、前示のように二台のブルが昼夜兼行で掘削作業に使用されており、田口千尋及び烏野武司の各検面調書(いずれも四六・六・二七付)によると、ブルのバケットが当たったりする危険性のあったことが認められるのであって、これらを総合して小型ブルのガス管接触の可能性を認定した原判決に所論の誤りのかどはなく、(1)(2)について、右田口及び烏野の各検面調書等により認められる本件現場におけるブルの掘削方法によると、ブルのバケットがガス管に接触したり、その掘削により土砂が崩落する危険性が十分認められ、両側方向に各1.5度の曲げを五回繰り返しただけで1.5kg/cm2位の内圧にしか耐えられない程度に性能が低下する場合もあるとする大阪ガスの事故原因調査グループの継手実験結果を根拠に、ブルのバケットが管に接触してこれを振動させ、あるいは土砂の崩落が影響して管を振動させたような場合は、両振幅曲げを繰り返すのと同様であり、振幅の大きさと継手部に伝達される曲げ角度の大きさいかんによっては、継手の性能を大きく損なうことになるとする原判決の説示に誤りはない。
また、原判決は、前示のとおり本件継手の締結力に欠陥をもたらした可能性のある原因を三つ挙げ、そのうち初期性能の欠陥が存在した可能性はかなり高いがあったと断定はできず、交通荷重による経年劣化の存在は間違いないが、いずれもその程度を量的に把握することは不可能であるとするのであるから、初期性能の欠陥がなく交通荷重の経年劣化の程度が低いか、初期性能の欠陥があったとしてもこれと交通荷重の経年劣化の両者併せての程度が低い場合、工事中の外力の作用による継手締結力の劣化ということを考えざるをえないという、言わば理の当然ともいうべきことを言っているに過ぎず、原判決の前提を論難するのはともかく(これについては既に判断した。)、右結論を非難する所論は採用できない。
5 まとめ
したがって、本件継手の締結力に欠陥をもたらした原因についての原判決の認定に誤りは認められず、論旨は、理由がない。
三予見の対象について
論旨は、原判決は本件における予見の対象を誤認したもので、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
しかしながら原判決挙示の各証拠によれば、本件における予見の対象は、本件継手の締結力に欠陥がありあるいは欠陥を生じて継手が抜け出す事実である旨説示した原判決の認定・判断は相当である。
まず所論は、原判決は、本件における予見の対象について、一般的に「過失犯が成立するためには構成要件的結果及び当該結果の発生に至る因果関係の基本的部分につき予見可能性が要求される」と首肯しうる説示をしながら、結局、本件事故の特色を理由に「本件事犯における予見可能性の問題は、本件継手の締結力に欠陥があり、あるいは欠陥を生じて継手が抜け出す事実の予見可能性の問題に帰着するものである」としたが、本件ガス噴出の原因は、当該継手の気密性の著しい低下であるから、予見すべき対象は右の事実であるのに、継手の抜出し及び締結力の低下を予見の対象とした原判決は事実を誤認したものである、というが、本件ガス噴出の原因は、既に前記一において判断したように、本件継手からのガス導管の抜出しにあったものであるから、所論はその前提を欠くものといわなければならない。
ところで原判決は、本件における予見の対象につき、「過失犯が成立するためには構成要件的結果及び当該結果の発生に至る因果関係の基本的部分につき予見可能性が要求されるが、本件のような地下鉄工事現場において、口径三〇〇ミリメートルもある中圧管が継手部で抜出したりすれば、その後どのような経過をたどるかは別として、継手部から噴出する多量のガスが工事中の掘削溝内に充満したり、あるいは路上に流出したりして、また最後には燃焼爆発に至るなどして多数の人に死傷の結果を招来する危険性のあることが明らかであるから、結局本件事犯における予見可能性の問題は、本件継手の締結力に欠陥があり、あるいは欠陥を生じて継手が抜け出す事実の予見可能性の問題に帰着するものである」と説示しているが、右にいう構成要件的結果の発生に至る因果関係の基本的部分とは、一般人がそれを認識すれば結果の発生を通常予見しうる事実であるから、右基本的部分について予見可能性があれば、構成要件的結果の発生についても予見可能性があることになる。本件において、本件継手が抜け出せば人の死傷を伴う重大な結果を招来することは一般人にとって容易に予見し得るところであり、結局「本件継手の締結力に欠陥があり、あるいは欠陥を生じて継手が抜け出す事実」を構成要件的結果発生に至る因果関係の基本的部分ととらえて右のように説示した原判決の判断は正当である。
次に所論は、仮に本件ガス噴出の原因が本件継手部ガス導管の離脱又は抜出しであるとしても、予見すべき対象は、証拠によって認定し得た構成要件的結果の発生及びその結果発生に至る因果の系列の基本的部分ないし重要な事実というべきであるが、その予見可能性が問題となる時点は、結果回避が可能な最終時点であり、したがって、右時点において予見すべき対象となる因果の基本的部分は、判決時には既に証拠により確定されているべきものであり、右時点から結果発生に至る間に生起するかもしれない事実などを予見の対象とすることは不当である。原判決は予見可能性の存否を検討する基準時として昭和四五年四月六日を設定し、その時点において水取器西側継手に欠陥が生じていたか、あるいは同日以降北角土取りまでの間に同継手に欠陥が生じて継手が抜け出すおそれが予見可能であると認定しているが、同日以降四月八日の北角土取りまでの間に当該継手に外力が加わった証拠はないから、四月六日において予見の対象とすべき事実はこのまま当該継手を懸吊して宙吊りにすれば継手が内圧に耐えられないほどその締結力が劣化していることにより抜出しを始める事実であって、右のような外力が加わる可能性をも含めて予見すべき対象とすることは、予見可能性の内容を極めて希薄化するのもである、というが、しかし原判決は、曲管部等ではガス導管が懸吊されると前後左右に動きやすく、支持力を欠くことにより継手の前後の管が抜出し方向にも動きやすいので、引抜抵抗力が内圧以下に低下すると継手は、内圧に抗し切れず抜出しを始めガス漏出の危険が大きいこと、さらに本件継手の締結力に欠陥をもたらしたあるいはその可能性のある原因の一つとして地下鉄工事の影響を指摘しているところ、関係証拠によると四月六日以降も右水取器以西の北角及び横断部付近の中圧、低圧両ガス導管の露出、懸吊のため原判決別紙二「地下鉄工事経過の詳細」の「五 昭和四五年四月初めから四月八日までの作業状況等」の(四)ないし(七)記載の作業が進められることが予定されていたことが認められるから、右四月六日の時点で、予見の対象として、その後の作業による本件継手に対する外力の可能性を考慮に入れたことが不当であるとはいえない。所論は採用できない。
論旨は理由がない。
四本件継手に対する抜止め防護措置の工法上の必要性について
1 総説
論旨は、「因果関係の基本的部分に予見可能性が要求される」としつつ、ガス導管の継手の締結力に欠陥があることやその原因についての具体的な認識ないし認識可能性がなくとも、本件継手に抜止め防護の施工が工法上要求されるとの点につき、認識ないし認識可能性があれば、右予見可能性は裏付けられるとした原判決は理論的に誤っているばかりでなく、抜止め防護の目的・性格は懸吊後の外力等に備える曲管部等の補強措置であるから、被告人らに仮に抜止め防護の必要性につき認識ないし認識可能性があったとしても、本件ガス導管の欠陥を予見し得るものではなく、抜止め防護の目的・性格を誤認した結果被告人らに右認識ないし認識可能性を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。
しかしながら、原判決に所論のいうような理論的な誤りはなく、後示のように抜止め防護の目的・性格はほぼ原判決の説示のとおりと認められるから、「本件のような中圧ガス導管の敷設配管状態のもとにおいて本件継手部には抜止め防護の施工が工法上要求されるとの点につき認識ないし認識可能性があれば、それだけで本件継手の締結力に欠陥があり、あるいは欠陥を生じて継手が抜け出す事実の予見可能性が裏付けられる。何故ならその施工が要求されること自体継手が抜け出す可能性を前提としているからである」旨説示した原判決に事実の誤認、判断の誤りはなく、当審における事実取調べの結果によっても右認定は左右されない。
以下、所論にかんがみ、主として三点について補足説明する。
2 結果回避措置の必要性の認識と予見可能性の関係
所論は、原判決の右説示は理論的に誤りである。即ち、抜止め防護の施工は、原判決のいう結果回避義務の内容であるから、原判決の右説示は、結果回避措置の必要性の認識ないしその可能性があれば、構成要件的結果ないしそれに至る因果関係が予見可能であるというものであり、もしこの命題が正しければ、一般に過失犯につき結果回避措置についての必要性の認識さえ認定すれば、予見可能性の検討は不必要となるに帰し、不当な見解である、というが、右に述べたように、原判決は、「本件継手が抜け出す事実」を予見の対象としており、ただ本件の場合結果回避措置である抜止め防護の必要性についての認識ないしその可能性があれば「抜け出す事実」についての予見可能性が裏付けられる、としているに過ぎないのであって、過失犯につき結果回避措置の必要性についての認識ないしその可能性があれば、構成要件的結果ないしそれに至る因果関係の予見可能性がある、としているのではなく、所論は、採用できない。
3 抜止め防護措置の目的と予見可能性
所論は、原判決のいう抜止め防護措置は、当時一般的に「抜止め」といわれておらず、「曲管防護」といわれていた。そしてその趣旨・目的は、ガス導管の抜出しを防止する目的のみでなく、またガス導管の土中埋設中に生じるであろう欠陥に対するものでなく、懸吊後数年間にわたる地下鉄工事の期間中に、懸吊露出された当該曲管部全体を補強する目的・機能を有していたのであるから、抜止め施工が工法上要求されていることについて認識ないし認識可能性があるとしても、継手に欠陥を有することの予見可能性につながるものではない、というが、関係証拠によると、本件当時「抜止め」という用語が必ずしも一般的ではなく、多くは「曲管防護」、「(曲管部)の防護」、「(曲管部)の補強」などといわれていたことが認められる(もっとも「抜止め」という用語も一部で使われていたことは、原審証人伊谷晃及び同牧紘一の各公判供述や後示条件付承認書(<押収番号略>)の「抜止め」の記載からも認められる。)。しかし、右抜止め防護措置の一般的な呼称はともかく、抜止め防護措置が抜止め以外の目的を併有することがあっても、本件中圧管の敷設配管状況のように、ガス導管の敷設・配管の具体的状況のもとで抜止め施工が工法上要求されることについての認識ないし認識可能性があれば、曲管部等の継手に欠陥を有することの予見ないし予見可能性を持つことになるのである。ところで関係証拠によれば「抜止め」措置(曲管防護)が導管懸吊後の外力からの影響に対処する一面を持つことは所論指摘のとおりであるが、単にそのような目的・機能に止まらず、万一ガス導管の継手が抜け出せば重大な結果を招来することが明らかであり、大口径の水道管、ガス管等の曲管部や分岐部を吊り下げると、管が偏圧により移動し得ることのあること(「地下鉄道施工法」一四五頁参照。)や曲管部、T字部等の継手は構造的にガス内圧により抜け出す可能性があることなどは地下鉄工事に従事する関係者にとって常識といってよいことがらであるから、原判決が「説明」「第四 抜止め防護」「一 抜止めの目的・性格と施工範囲及び施工時期並びに施工方法」の項で、曲管部等のどの範囲の継手に抜止めを施工すべきかは、現場の具体的な配管状況に応じて合理的・合目的的に検討し、かつその施工方法とのかねあいのなかで決められるものである、としつつ、一般的に、曲管部等ではガス導管が懸吊されると前後左右に動きやすく、支持力を欠くことにより継手の前後の管が抜出し方向にも動きやすいので、引抜抵抗力が内圧以下に低下すると継手は内圧に抗し切れず抜出しを始めガス漏出の危険が大きいが、継手の性能を低下させる原因の存在は必ずしも顕在的なものではなく、ましてや締結力低下の程度などは外部から確認のしようがないものであるから、右原因の存否、程度、将来の外力の作用の有無などについての知見、予測の有無にかかわりなく、抜止め防護措置は、万一の危険に備える目的のもとに、配管そのものの構造的な抜出し可能性に着眼して、主に曲管部等の継手に対し施工される一種の予防措置(危険防止措置、安全対策)としての性格を持つ旨詳細に説示する点は相当といわねばならない。そして、関係証拠によると、本件中圧ガス導管の敷設配管状況は原判決が「説明」第一の四「埋設ガス導管の存在とその露出、懸吊の状況」の項で詳細に認定するとおり、地下鉄二号線延長工事の本件第四工区現場には、上水管、電力の高圧線ダクト、電話線ダクトのほか本件の三〇〇ミリ中圧及び五〇〇ミリ低圧の二本のガス導管が工区内に並行してほぼ東西に埋設されていたが、この両ガス管の敷設、配管の状況は、五工区境から中圧管が北側、低圧管が南側になって西に伸び、原判決添付第一図に示されているとおり、中圧管は六号桁と七号桁の中間で、低圧管は五号桁と六号桁の中間でそれぞれ九〇度の角度で南に屈曲し、中圧管は東側、低圧管は西側となり、2.1ないし2.4メートルの間隔で南に伸び、中圧管の場合は約7.5メートル、低圧管の場合は約6.2メートルの各横断部を経て再びそれぞれが九〇度の角度で西に屈曲し、今度は低圧管が北側、中圧管が南側になって西に伸び、中圧管の場合は南角から約12.7メートル、低圧管の場合は南角から約9.3メートル西に伸びて一号桁付近に至っていた。そして同第二図及び第三図に示されているとおり、右横断部では、両管とも北側から順に電々ダクト、関電ダクト、上水道管を上越しし、そのため両管とも山形になって埋設深度が浅くなった。即ち中圧管は横断部北角で水平方向に九〇度屈曲するとともに約四五度の角度で立ち上がり、管長約1.5ないし1.6メートルの立上り部分以南は水平になって約4.1メートル進み、そこで管長約0.6メートルにわたって斜め下方に降下し、再び水平になって約1.9メートル進んだ南角で水平方向九〇度の角度で西に屈曲していた。また低圧管は、横断部北角で水平方向に九〇度屈曲するとともに急角度で立ち上がり、管長一メートル程度の立上り部分以南は水平になって約2.1メートル進み、そこから管長約3.6メートルにわたり漸次斜め下方に降下して南角に至り、水平方向九〇度の角度で西に屈曲していた。深度についてみると、地表から管頂までの深さは、中圧管の場合、横断部北角以東では一〇五(北角直東)ないし一六六(二一号桁付近)センチメートル、南角以西では一〇八センチメートル(一号桁及び五号桁付近)であるのに対し、横断部ではその最浅部で五七センチメートル位に過ぎず、また低圧管の場合、横断部北角以東では一二七(北東直東)ないし一六三(九号桁付近)センチメートル、南角以西では八八(五号桁付近)ないし七六(一号桁付近)センチメートルであるのに対し、横断部ではその最浅部で僅か一三センチメートル位に過ぎなかった(以上の横断部の深度はいずれも一月二五日ころから二月一一日にかけて行われた嵩上げ覆工する以前のものである。)。また中圧管にはその横断部北角の東方約2.7メートルのところにその西側が位置するように鋳鉄製の水取器(管長六八センチメートル、重量二五〇キログラム、その東西両側に継手がある。)が設けられ、一方南角の西方数十センチメートルのところ及び南角の北方約一メートルのところにそれぞれ西端に継手のあるスリーブが設けられているが、右水取器の西側継手(本件継手)から右南角北方のスリーブ継手までの間は溶接で一体となった一本の鋼管であり、水取器以東及び南角西方のスリーブ以西は、おおむね六メートルごとにガス型継手を持つ鋳鉄管であった。低圧管にはその横断部北角の東方約5.3メートルのところにその西側が位置するように鋳鉄製の水取器(管長九四センチメートル、重量五七〇キログラム)が設けられ、一方南角の西方約一メートルのところにスリーブが設けられているが、右水取器の西側継手から右南角西方のスリーブ継手までの間は溶接で一体となった一本の鋼管であり、低圧管のその余の部分は、おおむね六メートルごとにガス型継手を持つ鋳鉄管であった。なお四月八日午前中までに中圧管横断部北角やや南の低圧管との交差部においては、中圧管立上り部分が上になり、低圧管が下になり、両者が密着していたこと、原判決別紙二「地下鉄工事経過の詳細」の項で明らかなように、四月八日午前一一時ころには、中低圧両管とも四メートル近くにわたって露出宙吊りとなり、中圧管の横断部北角付近は原判決別紙第四図のNo.29、30が未懸吊で、横断部のNo.31ないし33、水取器西側No.28の懸吊並びに密着していた低圧管だけで支えられている状態にあったことが認められ、右のような本件中圧ガス導管の敷設配管状態のもとでは、横断部北角の曲管部に最も近い本件継手が交通荷重の影響を最も受け易く、配管構造上抜出しの可能性が高いことは容易に理解し得るところであり、後示認定のように東京地区では、すでに曲管部等異型管継手部に対する抜止め措置の施工が一般化される態勢にあったこと、大阪地区における抜止め施工の実施状況、大阪ガスが大阪市交通局高速鉄道建設本部建設部第二建設事務所(以下「二建」という。)から提出された四工区内のガス管懸吊計画承認願に対し、四月四日、三〇〇ミリ中圧ガス管のベンド部・T字部に抜止め施工することの条件を付してこれを承認した(<押収番号略>)ことなどに照らすと、まさに本件継手部には抜止め防護の施工が工法上必要であった、というべきであるから、これと同旨の原判決の説示に誤りは認められない。所論は採用できない。
なお所論は、本件継手は本件中圧管の横断部北角の曲管部から2.7メートル東側に位置しているから、右大阪ガスが要請したベンドの継手に該当しない、というので考えてみるのに、原審証人入江玉治(三二回)は、特に本件継手に着目して右条件を付したわけではなく、ベンド部・T字部というのはガス管が露出すると外力等の影響を受け易く、特に中圧管は内圧が高いので、そこに近い継手が抜け出さないように抜止め措置を施工して欲しいという趣旨で条件を付した旨供述し、右条件付承認書(符二三)には「300φ中圧管ベンド・丁字部には抜止を施工する事」の記載があり、右条件付承認書添付の「ガス管埋設物平面図S=1/300」によると、四工区内にはT字部はなく、同工区内における三〇〇ミリ中圧管のベンド部といえば本件横断部南北の各曲管部のほか同横断部から相当距離をおいて東方に二か所あることが認められるが、その配管状況からすれば北角の曲管部に最も近い本件継手に抜止め措置の施工の必要性があったとみるべきであるから、所論は採用できない。
4 施工の具体例との関係
所論は、このような抜止め防護の趣旨・目的は、後示の大阪地区等で施工されていた曲管部防護の具体例を検討すればより一層明らかになる。即ち、曲管部に防護されていない箇所も数多くあり、抜止め防護がなされている例にしても、その施工時期は懸吊より後が殆どであって、懸吊後かなり期間を経て施工されている例も少なくなく、懸吊前に継手締結力が劣化していることに備えて施工されたとみうるものは皆無である、というが、右所論については、後記五4(3)において判断するとおりであり、施工時期については懸吊と同時に施工された例は少ないが、懸吊前に継手締結力が劣化していることに備えて施工されたとみうるものは皆無であるとの所論は、採用できない。
5 まとめ
その他所論にかんがみ検討しても、原判決に所論の事実誤認、判断の誤りは認められず、論旨は、理由がない。
五本件継手が抜け出すに至った具体的因果の面及び抜止め防護の施工が工法上必要であることについての被告人らの認識ないし認識可能性について
1 総説
論旨は、「被告人らには本件継手が抜け出すに至った具体的因果の面でも、抜止め防護の施工が工法上必要であることについても、認識ないし認識可能性が認められる」とした原判決には、被告人らに右認識ないし認識可能性を認めた点で、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。しかしながら、関係証拠によると、原判決が「説明」第七のその二〔予見可能性〕の項において詳細に説示するところは、後示の一部当裁判所と見解を異にするところを除き、概ね相当として是認することができ、当審における事実取調べの結果によっても、右認定は左右されない。以下、補足して説明する。
2 本件ガス噴出に至る具体的因果系列とその認識ないし認識可能性
所論は、原判決が、「説明」第七のその二の二(一)「本件継手の抜出しに至る具体的因果についての認識ないしその可能性」の項で本件ガス噴出に至る具体的因果として整理・列挙している①ないし⑩の一〇項目のうち、ガス噴出と事実的因果関係を有するものとして意味があるのは③ないし⑦だけである。これを更に要約すると、初期性能の欠陥、交通荷重による経年劣化、地下鉄工事の影響の三種類に分類しうるところ、初期性能の欠陥が存することは証拠上認定し得るが、被告人らには右欠陥につき認識可能性はなく、交通荷重による経年劣化がある程度存することは否定できないものの、これによって著しい欠陥が発生することはなく、更に地下鉄工事の影響については証拠上明らかにされていないのであるから、結局被告人らに本件継手に著しい欠陥があったこと(百歩譲ってそれが締結力の欠陥としても)の予見可能性を認めることができない、というが、原判決は、本件継手が抜け出すに至った因果の系列として所論指摘の①ないし⑩の事実を挙げ、①において本件継手はその締結力に欠陥がありあるいは欠陥を生じれば、差し込まれている管が承け口から抜け出し得る構造であること、②において継手に抜出し力として作用するガス内圧の存在、③ないし⑦において本件継手の締結力を劣化させあるいは劣化させる可能性のあった諸要素、⑧において、右③ないし⑦の諸要素のため、四月八日午前中最後に残されていた北角付近の本件中圧管を露出宙吊りにさせた時点で、本件継手の締結力がガス内圧に耐えられないほどの欠陥を持っていたこと、⑨において横断部及びその前後の管は配管構造上前後左右にきわめて動きやすい状況にあったこと、⑩において、右⑧及び⑨のためついに本件継手が抜出しを始め、大量のガス噴出をみるに至ったことを指定しているところ、関係証拠によれば、原判決が「説明」第七その一の一ないし五で認定した被告人各自のこれまでの地下鉄工事の経験及び本件地下鉄工事における業務内容、即ち、被告人Aは昭和二三年三月工業専門学校土木科卒業と同時に鉄建建設に入社し昭和三三年からは専ら地下鉄工事に従事し、昭和四四年九月本件四工区工事現場代理人となり、本件に至るまでの間、それぞれの工事現場で作業所次席兼工事主任、作業所次長兼主任技術者、作業所長としての業務に従事してきた経験を有するものであり、本件四工区工事においては鉄建建設側の総括者的立場にあって、同工区の工事施工にともなう一切の事項を統括管理していた。被告人Bは、昭和三三年三月大阪市立大学工学部土木学科卒業と同時に鉄建建設に入社し昭和三九年一〇月から地下鉄工事に従事し、昭和四四年一〇月本件四工区工事の工事主任兼主任技術者となり、本件に至るまでの間それぞれの工事現場で現場監督、工事主任としての業務に従事してきた経験を有するものであり、本件四工区工事について被告人Aを補佐し、工事現場における総責任者というべき立場にあった。被告人Cは昭和三四年三月公立工業高等学校土木科を卒業し昭和三九年五月鉄建建設に入社後、昭和四〇年八月から昭和四三年一二月までの間及び昭和四四年一〇月以降本件に至るまでの間それぞれの地下鉄工事現場監督としての業務に従事してきた経験を有し、本件四工区工事においては現場監督の中での古参者として班長的立場にあって被告人Bを補佐していた。被告人Dは昭和二九年公立工業高等学校建設課程を卒業し、昭和三〇年七月鉄建建設に入社後、昭和三二年四月から昭和三三年五月までの間、昭和四〇年九月から昭和四二年一一月までの間及び昭和四五年四月一日以降本件に至るまでの間それぞれの地下鉄工事現場監督、工事主任としての業務に従事してきた経験を有し(なお、昭和四二年一二月から昭和四四年一一月までの間工事主任として高速道路下部工事等の指揮監督に当たったこともある。)、本件四工区工事においては、被告人Bの後任を予定されていたが、被告人Aの指示により、さし当たって現場監督の業務に従事していた。被告人Eは昭和三三年三月東京農業大学農業工学科卒業と同時に鉄建建設に入社し、昭和三七年九月から昭和三八年七月までの間、昭和三九年一二月から昭和四二年八月までの間及び同年九月以降本件に至るまでの間、それぞれの地下鉄工事現場で企画主任、企画工務主任としての業務に従事し、本件四工区工事においては企画部門における総責任者というべき立場にあり、被告人Aの指揮監督のもとに本件工事の企画業務(二建に提出する各種承認願の作成も含まれる。)全般を処理していた事実並びに同その二の一で認定した被告人ら各自の個別事情―被告人らはいずれも本件中圧管の水取器には本件継手があり、同水取器から横断部にかけての配管状況及び四月初めころからの付近掘削、懸吊作業の進行状況等を十分に認識しあるいは業務上当然認識すべきものであった―を認めることができる。右認定のような被告人らの地下鉄建設工事に関する豊富ないし相当な経験、本件地下鉄工事に関する知見に徴すれば、被告人らは①、②、④ないし⑨の各事実を容易に認識し得たと考えられるうえ、後示のように本件継手に対する抜止め措置の工法上の必要性についても被告人らに認識ないし認識可能性があったことを併せ考えると、四月六日中に本件水取器が露出懸吊されてその東方からのガス導管が宙吊りとなり、その後も掘削を進めて右水取器以西の横断部付近全体のガス導管を露出宙吊りさせれば、右①、②、④ないし⑨の諸要素が競合して本件継手がガス内圧に抗し切れずに抜出しを始めるかもしれないことを認識すべきであり、認識することは可能であったといわなければならない。右とほぼ同旨の原判決の判断は相当であり、所論は採用できない。
3 被告人らの経験、大阪ガスの責任、継手抜出しの先例等と予見可能性
所論は、被告人らが、本件継手に著しい欠陥が生じていること、抜け出すことあるいは抜止め防護の必要性について認識不可能であることは、以下の事実からも明らかである、というがいずれも採用できない。即ち、
(1) 被告人らには、過去に廃休管の継手を苦労して取り外した経験からガス管継手の締結力は強いものとの認識があり、またガス導管については保安責任を有するガス会社がその維持保安について十分な措置をとっていると思っており、懸吊しただけで抜止め防護が必要であるとの認識ないし認識可能性はなかった、というが、前段については、原判決は、原審における所論と同旨の主張に対し、「ガス導管の継手は普通には十分な強度を有するものであり、このような強度を保った廃休管の継手を処理するにあたり作業上の困難をともなっても当然のことといえるが、なんらかの原因によって締結力に欠陥を生じており、あるいは将来生じることもある(被告人C及び同Dが体験したように、現に欠陥を生じて継手が抜出しを始めた事例もある。)からこそ、また右欠陥の存在は外観上これを確かめることができない(括弧内省略)から、現に徴候や前兆の有無にかかわらず、配管構造上の抜出し可能性に着目して抜止め防護を施工することが工法として普及していたのである」(「説明」第七のその二の三)と説示して弁護人の右主張を排斥したが、後記4(3)の大阪市交通局の地下鉄建設工事における抜止め施工の実情に照らすと、大阪地区ではガス導管曲管部等に対する抜止め施工は工法として普及していたとまではいえないから、「工法として普及している」ことを一つの根拠に弁護人の右主張を排斥した原判決の説示には賛同できない。しかしながら右抜止め施工の実情によると、後示のように原判決が摘示する原判決「別紙四 抜止め施工の実例」一〇例は抜止め目的ないし抜止め機能を有するものであり、口径、内圧、曲り角度の諸点から抜出しを生じ易いとみられる三〇〇ミリ以上、中圧管、九〇度の場合は例は少ないが全てに抜止め施工がなされており、前示のとおり本件中圧ガス導管の敷設配管状態のもとでは本件継手部には抜止め防護の施工が工法上必要であり、後記4において説示するように、そのことについて被告人らに認識ないし認識可能性があったことなどからすると、被告人らにおいて本件継手部が抜け出す事実について予見可能性があったものというべく、所論は被告人らの予見可能性を否定する根拠となし得ない。また後段についは、後記七2において詳細に判断するとおり、大阪ガスが、本件ガス導管の所有者であり、ガス導管安全確保の最終的責任者として、本件継手に対する抜止め施工を完了するよう具体的に指示指導してこれを実現させるようにしなければならないことはガス事業法の趣旨、規定(当時の二八条一項等)からみて当然のことであるが、工事施工者である鉄建建設は、自らの手で本件中圧ガス導管を露出し、その安全確保上危険な状態を作出するのであるから、その保安のため工法上必要とされる本件継手に対する抜止め防護の措置を、本来自発的に、大阪ガス担当係員の指導助言を求めるなどして施工しなければならないものであり、ましてや大阪ガスによる抜止め施工の要請の事実を交通局(二建)から通知され、その施工を指示された以上、さらに工法などにつき二建を通じてあるいは直接大阪ガスの係員と協議を重ね、右要請どおり本件継手に対する抜止め防護を施工しなければならない義務がある、というべきで、大阪ガスにガス導管安全確保の責任のあること及び被告人らにおいて大阪ガスがその安全確保につき十分な措置をとっていると思っていたことは、被告人らの認識可能性を否定する事由とはなしえない。
(2) 昭和四五年四月四日に本件中圧管横断部南角付近のスリーブジョイントからガス漏れがあったにもかかわらず、ガス会社の係員はじめ何人も本件継手の欠陥を認識し得なかった、というが、原判決が、「説明」第七のその二の三の項で説示するとおり通常のガス漏れは継手内部における鉛と導管の気密性に関係して生ずるもので、継手の欠陥とは直接の関係がなく、ガス漏れがあるからといって継手に欠陥があるとは限らず、また継手に欠陥があるからといって、相当量の抜出しをみる以前に継手からガス漏れが生じるとは限らないのであって、したがって、被告人らが右ガス漏れがあったのに本件継手の欠陥を認識しなかったとしても、そのことから本件継手に欠陥が生じていることの認識が不可能であるとはいえない。
(3) 継手の抜出しは希有の事例であり、しかも本件継手にはその前兆や徴候は全くなく、継手の抜出しを予見することは不可能であった。継手抜出しの唯一の先例は、五号線一一工区(玉川町停留所)の事例のみであり、しかも右事例は本件と全く事例が異なり、この経験から本件の継手抜出しを予見することは不可能である、というが、前示のように、抜止め防護措置は、曲管部等の継手の引抜抵抗力低下の原因の存在や締結力低下の程度は外部から確認できないので、右原因の存否、程度、将来の外力の作用の有無などについての知見、予測の有無に関係なく、一種の予防措置として講じられるものであり、前示のとおり本件中圧管の敷設配管状態のもとにおいて本件継手部には抜止め防護の施工が工法上要求されるとの点につき認識ないし認識可能性があれば、それだけで本件継手の抜け出す事実の予見可能性が認められるから、継手の抜出しが希なことであり、本件継手にはその前兆や徴候がなかったとしても、そのことから本件継手の抜出しの予見可能性がなかったとはいえず、また、原判決は、所論の五号線一一工区(玉川停留所)の事例について、被告人D及び同Cに対しては、ガス導管の継手が現実に抜け出しうるものであること及びこれに備えて抜止めが施工されるものであることを体験的に知ったことの証拠として、その余の被告人らに対しては、後示のように、大阪市交通局における抜止め施工のされている一事例として挙げたものであって、いずれも被告人らの予見可能性を認める一資料としたもので、右事例だけで被告人らの予見可能性を認めたものではない。
なお弁護人は、当審弁論において、原判決は四工区のガス導管を懸吊した場合に本件継手が抜け出すことの予見可能性を認める一要素としてその配管状態の複雑さを指摘するが、五号線一一工区の配管状況は四工区のそれに比し格段に複雑であったから、かかる現場で地下鉄工事に従事していた被告人D及び同Cが四工区の配管状況をみて特に複雑なものと考えなかったのは当然であって、同地区の配管状況をもってガス導管抜出しの予見可能性を裏付けるものとはいえない、といい、被告人Cの当審供述及びその調書に添付の「五号線玉川町停留所広間部埋設物状況平面図(2)」によれば、五号線一一工区のガス導管の配管状況が四工区のそれと同じあるいはそれ以上に複雑であったことが窺われる。しかし右複雑さの内容が四工区内の本件三〇〇ミリガス導管の本件北角及び横断部付近における特殊な配管状況のように具体的に認定できないから、主張は前提を欠くものといわねばならず、採用の限りではない。
したがって、所論は採用できない。
4 原判決のいう「客観情況」について
所論は、抜止め防護の施工が工法上要求されることについての認識ないし認識可能性を根拠づける「客観情況」として原判決が挙げる以下(1)ないし(4)の諸点は、いずれも右認識ないし認識可能性を根拠づけるものとはなしえない、というが、以下に説明するとおり、原判決挙示の各証拠によれば、右の点につき、原判決が「説明」第四の二、三で説示するところは、いずれも右認識ないし認識可能性を根拠づけるという結論においてこれを是認するに十分である。
(1) 書籍「地下鉄道施工法」について
所論は、同書は懸吊に先立って移動防止の措置をしなければならないとはしていないばかりか、右措置は懸吊することによって生じる影響を防止するための措置とされ、懸吊までに当該曲折部や分岐部継手の性能が低下していることに備える措置とはされておらず、懸吊前に既に継手が劣化していることが原因で、懸吊しただけで継手が抜け出すような事態は全く予想していない。また、仮に同書のいう「移動防止のための手当て」が原判決のいう抜止め措置に該当するとしても、著者は、抜止めは懸吊後の影響に対処するものと認識しており、原判決のいう抜止めの目的を認定する資料とはなりえない、というが、右書籍(<押収番号略>)は、「防護中の埋設物に対する損傷、故障による被害はなかなか大きい。すなわち、ガス漏洩による火災、人身事故または水道管、下水管の漏水による土砂崩壊など悪質の事故を誘発することがある。防護中の埋設物はその状態を常に点検し、異状あれば直ちに補修処理することが肝要である。また防護管路の構造を十分理解して防護工を施すことが事故防止の第一歩である」(一四二頁)、「大口径の水道管、ガス管などの曲折部や分岐部を吊り下げるときは、偏圧により移動しそのジョイントから漏水、漏気を生ずることがある。移動防止のための手当が必要である」(一四五頁)と述べ、ガス管の継手の両側に鉄バンドを巻き、これをアングルで緊結するなどの図面及び写真を例示(一四四、一四五頁)していて、ガス導管の曲管部には、移動防止等の抜止めを施工することが重要であることを指摘していることは明らかであり、ガス管曲管部等の懸吊に先立って移動防止の措置をしなければならないとはしていないが、右記載等に照らし、右措置が、専ら懸吊後に生じる影響のみに対するものであり、著者もそのように認識していた、とはいえない。そして、右書籍は、地下鉄工事施工に関する指導書としてある程度一般的なものであったと認めることができるから、これを被告人らが抜止め施工の必要性を認識しうる一資料とした原判決の説示は相当である。
(2) 「ガス導管防護対策会議」における調査結果について
所論は、右会議の報告書三六頁には、原判決説示のようにガス導管露出の場合には接手防護を行っている旨の記載があるが、右は東京地区に関して東京瓦斯ないし日本瓦斯協会が提出した資料に基づき記載されたものと考えられ、大阪ガスが提出した資料には曲管防護に関しては記載がなく、また前者につき、継手抜出しの原因につき何ら具体的な指摘がなく、かえって同報告書三五頁の記載によると、ガス導管は埋設中は十分な安全率を有して敷設されていることを所与の前提として、これを露出懸吊しただけでは何ら問題はないことを明言しており、したがって、継手防護の施工は、前示「地下鉄道施工法」等の趣旨も併せ考えると、工事中の振動や外力に備えるものというべきである。さらに土木工業協会が右会議に提出した資料にも、曲管防護や埋設中のガス導管継手部の劣化には何ら触れていない。かように、昭和四四年の板橋事故後、ガス導管の危険性につき注意が喚起されている時期に、右事故の原因究明や事故防止対策等のため斯界の権威者や実務担当者により開かれた対策会議においてさえ、ガス導管の曲管部継手の欠陥について全く危惧されていないことからみて、前示認識ないし認識可能性を認める根拠となしえない、というが、右報告書については、原判決が「説明」第四の二の(二)「ガス導管防護対策会議における調査結果等(東京地区における実情)」の項において説示するとおりであるが、要するに、昭和四四年三月二〇日東京都板橋区内で発生したいわゆる板橋ガス爆発事故を契機に通商産業省(以下「通産省」という。)公益事業局に設けられたガス導管防護会議は、ガス導管防護の現状について、各地のガス事業者から資料を提出させるなどして調査し、その結果を同年一二月二五日報告書としてまとめたが、右調査結果によると、東京地区においては、ガス導管の曲管部等の継手部に対する抜止め防護措置が施工される実情にあり、殊にガス事業者においてはその旨を社内基準で定め、また帝都高速度交通営団が起業者になっている地下鉄工事の場合には、ガス事業者と協議のうえ、曲管部継手の防護(抜止め)についての標準的施工図を予め作成し、これに則り右施工が行われるようにしていたと認定しており、関係証拠によると右認定は相当である。所論の右報告書三六頁の記載については所論のいうとおりと考えられるが、しかし同報告書のガス導管曲管部等の接手防護の現状についての記載は、東京地区におけるものとは限定されていない。また同報告書三五頁の記載は、「ガス導管は日本工業規格等によって定められた基準に従って製造されたものであり、これを通常の道路に埋設して使用する場合には、予想される土圧、車両荷重等の荷重に対して十分な安全率を有している。しかし、他工事を施工し、埋めもどし後に路面の沈下等によって地盤の支持力がなくなり、このため異常な荷重がガス導管に加わり、亀裂折損等の事故が発生するおそれがあるのでこれを防止するため、種々の防護方法を行っている」というものであり、一応所論を裏付けるようにみれなくもないが、しかし、右記載中には「通常の道路に埋設して使用する場合には」とあるところ、前示のとおり、本件中圧管は、本件継手である水取器西側継手から横断部北角を経て南角北側スリーブに至るまで一本の鋼管になっていて、その配管状況が複雑でかつ右横断部の最浅埋設深度が五〇ないし六〇センチメートルと法令の規制する特別の場合の最低限かそれにも達していないうえ、約八年間の埋設期間に積載物のある大型車両が右横断部の深度の浅い部分を通過した回数が約八〇万回と推定されており、右状況が本件継手の締結力劣化の少なくとも一因であることなどに照らすと、右記載は通常の埋設状況等を前提にしたものであって、本件中圧管の右の場合なども含め「これを露出懸吊しただけでは何ら問題はないことを明言している」と断ずることはできない。さらに、土木工業協会が右対策会議に提出した資料には曲管防護や埋設中のガス導管継手部の劣化について触れていないのは所論のとおりであるが、東京瓦斯株式会社が右対策会議に提出した資料には、異型管継手部等の防護については別に定める基準により行う旨の記載があり、また日本瓦斯協会提出の資料には、異型管継手部等の防護は第七ないし第一一図及び第二ないし第六表の基準により行う旨記載され、第七ないし第九図でベンド部及びチーズ(T字)部の各継手につき、その両外側の管周やベンド管の中央部を鉄バンドで締め、これをアングル又はチャンネル鋼で結び付ける抜止め措置の方法が図示されており、さらに、前示対策会議報告書は、「現在、他工事施工の際行なわれているガス導管の防護方法は次のとおりである」とし、「口吊防護」の項で「掘さく坑内にガス導管が露出した場合には、たるみを生じたり、または接手が抜けたりしないよう第四図および第五図のように吊防護および第六図のように接手防護を行なっている」と述べ、第四図及び第五図では直管部についての吊防護の方法、第六図ではチーズ部及びベンド部について右日本瓦斯協会提出資料と同様の抜止め措置の方法を図示しており、右内容を含む前示報告書については、通産省(公益事業局)から建設省道路局長に対し、報告書に盛られた事項の具体的実施方を依頼し、土木工業協会に対し、報告書に盛られた事項に基づきガス事故防止対策の強力な推進を図るよう同協会会員に対する周知徹底方を依頼し、また地下鉄工事企業者に対し、ガス導管の事故防止のための措置を講じ、これを強力に推進するよう報告書を添付して依頼していて(なお、日本瓦斯協会に対し、別途ガス導管に関する事故防止のための対策を講ずるよう会員に対する周知徹底方を依頼している。)、これにより、継手防護の必要性を全国的に公にし、その周知徹底を図ったものと理解することができ、被告人らもこれを知り得る立場にあった。そして東京地区では、地下鉄建設工事の他工事施工の際掘削溝内にガス導管が露出した場合その曲管部等の継手の万一の抜出しに備えて抜止め防護措置が施工されている実情にあったことは、多年にわたり地下鉄建設工事において掘削、ガス導管の露出、懸吊作業に従事してきた被告人らの本件中圧管が露出した場合曲管部等の継手部に対する抜止め防護措置の必要性の認識ないし認識可能性を判断するうえで無視できない事情というべきである。
(3) 大阪市交通局の地下鉄工事における抜止め施工の実情について
① 原判決及び所論の要旨
右の点について原判決の説示の要旨は、大阪市発注の地下鉄工事においても、水道管の場合のように理想的ではないにせよ、施工業者は、大阪ガス立会担当員の個々の要請や指導助言の下に、右要請にもとづき、あるいは自発的に、ガス導管曲管部等(管端末のカップ(またはプラグ)に対する防護として施工されたものを除外しても)に対する抜止めを施工してきており、明らかな事例が一〇例あり、工法として普及してきたと言える。ガスの内圧が継手に抜出し作用として働く力の大きさは、内圧に比例するとともに管の外径の二乗に比例し、曲管部の曲り角度が大きいほど構造的に抜出しが生じ易いところ、傾向として、不施工例には低圧、小口径、小角度のものが多く、施工例には中圧、大口径、大角度のものが多い。中圧管であることがはっきりしているものでは、口径はいずれも三〇〇ミリ以上で、少なくとも九〇度では大部分が施工されている、というものである。
所論は、原判決は、「大阪市発注の地下鉄工事においてもガス導管曲管部等に対する抜止めは工法として普及してきていた」とあたかも本件当時においては大阪地区においても、施工業者が自発的に抜止めを施工することが広く一般に普及していた旨説示するが、まず、原判決が大阪市交通局関係で抜止めが施工された実例として認定した一〇例につきみるに、抜出し防止措置としての機能を有しないもの(原判決別紙四の番号8、9。以下番号のみ記載する。)、それが不完全なもの(2)、懸吊の便宜のために曲管部を一体化したとみられるもの(3、5、10)、かしめ直しでは不十分であったガス漏れ防止措置を補強するもの(4)、継手抜出しが現にあったため、これをそれ以上の抜出しを防止するための措置であるもの(7)等であり、残りの二例(1、6)も、仮にそれが抜止めの目的を有していたとしても、原判決が認定するような現に欠陥を有している継手の抜出しを防止しようとする目的を有していたものではなく、将来の外力に備えた曲管部の補強措置とみられる。また仮に、右一〇例が原判決のいうような抜止めの施工例であるとしても、原判決が証拠上明らかなものとして挙げたのは一〇例に過ぎず、証拠上明らかに抜止め防護がなされていない例は別表のとおり五一箇所にものぼり、かかる状況において「工法として普及してきていた」と断定することは到底できない、というのである。
② 抜止め施工の実施状況についての関係者の供述
そこでまず、抜止め施工の実施状況についての関係者の供述証拠をみるに、本件地下鉄工事の専従立会担当者であった大阪ガスの中村弘の原審証言(四七回、一〇二回)は、昭和三八年一二月ころ大林組が北区梅田町三丁目で六〇〇ミリガス管にした抜止め(1の事例)及び昭和三九年一月ころ三井建設が西区土佐堀船町で四〇〇ミリガス管にした抜止めは、相手から求められたか、こちらから言い出したかは忘れたが、自分がアドバイスしてしてもらった。その他にも自分が頼んで抜止めをしてもらったり、業者が自発的に抜止めをしたところも数多くある。抜止めをしたところ全てに立ち会ったわけではない。その中何箇所か抜止めの事例を写真撮影したり、撮影した写真を提供してもらったりした。一般の抜止めの工法については、大阪ガスとしては連絡があれば現地に立ち会うが、業者がいずれも大会社であり、抜止めについての経験を信頼して、特に承認とか指示はしなかった。昭和四一年ころからは抜止めをしなければいけいなことは地下鉄工事業者間の常識になっていた。抜止めそのものについての業者の意識も自分らの要望によって段々深まっていった旨、同じく大阪ガスの専従立会担当者であった栗川末雄の検面調書(四六・六・二六付、四六・七・一二付)は、中村弘の後自分が抜止め施工等の写真撮影をした。五号線二〇工区で大林組が三〇〇ミリ低圧管の四五度立上りベンド部にした抜止め、六号線二工区で鹿島建設が三〇〇ミリ低圧管の四五度立上りベンド部にした抜止め(8の事例)、四号線深江交差点で大成建設が五〇〇ミリ低圧管の四五度立上りベンド部にした抜止め(9の事例)、二号線二工区で佐藤工業が三〇〇ミリ中圧管の22.5度の水平ベンド部にした抜止め(10の事例)の各写真は自分が撮影したもので、右施工は全て業者が自発的にした。その他大成建設が四号線二〇工区及び二一工区で、間組が四号線二三工区で、鉄建建設が五号線一一工区で、前田建設が六号線一工区で、それぞれベンド部、T字部あるいはクロス部に抜止めをした。そのうち間組が四号線二三工区で一五〇ミリ低圧管の四五度立上りベンド部にした抜止めは自分が業者にするように言ってしてもらったが、その他は、全て業者が自主的にした。ベンド部、T字部等に抜止めをすることは地下鉄工事業者の常識になっていたといえると思う旨それぞれ述べ、また被告人らを含む多数関係者が捜査段階で、ガス管を露出懸吊する場合には曲管部等に抜止め等の防護をする必要があるとか、抜止めは工法上の常識であるとか述べているところ、原判決は、右各供述証拠と後示施工例及び不施工例を総合して、「右中村及び栗川は、その義務を遂行するにあたり、個々の工事現場において、必要に応じ、ガス導管の曲管部等に抜止め防護の施工をするよう個別的に施工業者等企業者側に要請し、またその指導に当ってきており、施工業者は、この要請にもとづき、あるいは自発的に、大阪ガスや建設事務所と協議して施工図を作成のうえ、あるいは自ら施工方法を設計するなどして、曲管部等の継手に抜止め防護を施工してきた。このようにして、大阪市発注の地下鉄工事においてもガス導管曲管部等に対する抜止めは工法として普及してきており」と説示したものと考えられる。しかしながら、栗川末雄が唯一抜止め施工を要請したという前示間組のケースは、原一夫の原審証言(八二回)及び第四号線二三工区工事写真(<押収番号略>)二四頁中段の写真によると抜止め施工がされていないことが明らかであり、中村弘が大林組や三井建設以外にも抜止め施工の要請をしたのは多数ある旨の前示供述についても、その供述内容等に照らすと、4、7のケースのようにガス漏れとか抜出しといったいわば事故のあった場合の外どの位あったのか明らかでなく、また被告人ら及び右中村、栗川を含む関係者の曲管部等の継手に対する抜止め施工は工法上の常識である旨の供述部分は、同人らにおいて、少数の例外を除き原審公判廷でこれと反する供述をしていることや、後示施工例、不施工例についての検討結果を併せ考えるとたやすく信用できず、弁護人が控訴趣意書第八の三において、被告人らの供述調書の信用性を争う点は右の限度で理由がある。
③ 施工例の検討
次に原判決の挙げる施工例一〇例につき検討するに、所論は8について、管に鉄バンドを巻くのでなく、アングルを三角形にして管を締め付ける方法をとっており、継手が「く」の字型になるのを防止する機能を有するだけで、継手の抜出しを防止する機能を有しないというが、右事例の施工方法は、曲管部の二または三箇所を(鉄バンドを巻くのではなく)アングルで三角形状に締め付け、さらにそれらをボルトで連結しているのであるから、抜止めの機能も有すると認められる(なお、抜止め施工は、仮懸吊の後、本懸吊とほぼ同時くらいに行われたことが認められる。)。9については地下鉄関係写真集(<押収番号略>)二五頁下段の写真及び栗川末雄の四六・六・二六付検面調書によると、原判決も指摘するとおり「五〇〇ミリ低圧管四五度立上り部分の継手の両側に鉄筋を巻き、それを鉄筋二本で結合してあるようで、そうだとすれば鉄筋と管との摩擦力に難点がある」が、抜止め機能はあると認められる。2については、地下鉄工事写真集(<押収番号略>)五四頁右下段、五五頁左上段の写真及び中村弘の原審証言(四七回、五四回)によると、原判決説示どおり三〇〇ミリ低圧管の曲管部二箇所について、ガス管に巻いた鉄バンドを鉄筋で結ぶ方法をとっており抜止め措置と認められ、鉄筋(ボルト)が一本であるからといって不完全とはいえない。3、5、10については、いずれも懸吊の便宜だけのためにされたものということはできない。即ち、3につき、所論は、補強されたのは縦方向四五度の曲管部だけで、これに続く水平四五度の曲管部には補強がされていない。もし施工者や中村らが、原判決のいうように原因の如何を問わず「配管構造上の抜出し可能性に着目し、曲管部の継手がとにかくなんらかの原因でガス内圧に抗し切れない程度に低下しており、あるいは将来低下するかもしれないことに備え」て抜止めが施工されるものであると考えていたのであれば、縦方向だけに補強して、水平方向の曲管部には補強をしないといった施工方法をとらないことは明らかで、縦方向の曲管部だけに補強をしたのは、短管で構成されたS字形配管を一体化して懸吊する便宜のためである、といい、右地下鉄工事写真集(<押収番号略>)六二頁上段の写真、中村弘の原審証言(五五回)及び原審相被告人Fの公判供述を援用するが、同写真及び中村弘の同証言によると、原判決説示のとおり、縦方向に四五度でS字型に曲がった四〇〇ミリ中圧管の曲管部について、ガス管に巻いた鉄バンドにアングルまたはチャンネルを溶接して抜止めがなされていることが認められ、右写真及び中村証言によると、水平方向四五度の曲管部があるとは認定できないので所論の前段は前提を欠き、またF原審供述(一三五回)は、曲管部にはベンドとチャンネルらしい金具がついている、抜止めかどうかはっきりわからない旨の供述はしているが、所論のいうように懸吊の便宜のためであるという趣旨の供述はしておらず、後段も採用できない。5については、所論は、右現場にはT字部、端末、22.5度の縦方向の曲管部(T字部分岐管)があるが、この防護の目的は端末とT字部の補強にあり、また端末部の補強の外にはT字部本管の継手には何ら補強がなされておらず、またT字部分岐管は22.5度で立ち上がり曲管部を構成しているが、補強されていることが明らかなのは分岐した第一番目の短管の両側の継手だけであることなどからすると、T字部分岐管の補強は、立上り部分の懸吊の便宜のため、これを一体化する目的で施工されたものと解される、というが、高速電気軌道第二号線六工区工事写真(<押収番号略>)七丁上、下段の写真及び高橋正雄の原審証言(一二九回、一三一回)によると、T字部本管の最寄りの継手のT字部からの距離が不明であること(したがって、当該継手に対する抜止め防護の必要性の有無が判断できない。)、T字部分岐管の一番目(T字部のジョイント)、二番目の継手に原判決説示のとおり、鉄バンドを巻いて、鉄バンド相互を鉄材で連結する方法がとられていること、三番目の継手やそれに対する抜止め措置の有無等の状況は不明であることなどが認められ、これらに照らすと、右高橋証言のいうように、右措置の主たる目的が端末とT字部の補強にあるとしても、抜止めの機能もあったというべきで右措置についての原判決の説示に誤りはない(なお、抜止め施工は懸吊作業と並行して行われたと認められる。)。10について、所論は、防護の目的は一体化して懸吊するためであった旨の伊谷晃の原審証言は現場の配管状況と合致していて信用でき、原判決が「このような施工方法は、単に懸吊上の便宜というだけではなく、抜止めとしての効用も併せ配慮して考案されたものと考えられる。」というのは、証拠に基づかない独断である。もし抜止めとしての効用が配慮されていたものであれば、曲管部に続く直管部の第一継手部やT字部にも補強しなければならないのにされておらず、前示補強は抜止めの目的を有せず、懸吊の便宜のためだけであったことが明らかである、というが、地下鉄関係写真集(<押収番号略>)五八頁の写真、佐藤工業現場巡回写真六枚中の二枚(<押収番号略>)、伊谷晃(六七回〔添付のガス管曲管部補強及び懸吊実施図を含む。〕、六九回)及び前田育紀(八六回、八八回)の各原審証言並びに栗川末雄の検面調書二通(四六・六・二六、四六・七・一二付)によると、右写真撮影当時T字部への補強がされておらず、曲管部に続く直管部の第一継手にはその後も補強措置がされなかったのは所論のとおりであるが、三〇〇ミリ中圧管の22.5度の水平ベンド部に鉄バンドを巻き、ボルトで連結する方法をとっており、佐藤工業としては右実施図どおりT字部にも曲管部と同時に補強する予定であったが、大阪ガス係員栗川末雄から、かしめ直しをして押輪を取り付けるまで補強を待つよういわれたため実施を右取付け作業終了まで延期したのであり、また直管部第一継手に補強しなかったことから直ちに抜止め措置でないとはいえず、さらに原判決は、右各証拠を総合して抜止めとしての効用をも併せ配慮して考案したと説示したものと考えられるのであって、右は証拠に基づく合理的な推認であり、証拠に基づかない独断とはいえない。4については、所論は、右補強措置は、かしめ直しの補助措置として施工されたものであって抜止め防護の目的は全くなく、そのことは、曲管部に続く直管部の継手が補強されていないことからも窺える、というが、右補強措置がかしめ直しを契機としてなされたことは所論のいうとおりであるが、右地下鉄工事写真集(<押収番号略>)六三頁上段写真二枚、中村弘(四七回)、神村幸秀(八四回)及び牧紘一(一二九回)の各原審証言並びに牧紘一の検面調書二通によると、七五〇ミリ中圧管の水平九〇度ベンド部二か所について、管に巻いた鉄バンドにアングルまたはチャンネルを溶接したもので、右補強措置が抜止め措置であることは明らかであり、右直管部継手が補強されていなかったことは右認定の妨げとはならない。7については、所論は、右補強措置は、現実に継手が抜け出したため、これを防護したものであり、原判決が認定した抜止め防護の目的、性格(予防措置ないし危険防止措置)とは全く異なる目的、観点から施工されたものであるから、このような施工例をもって抜止め防護が普及していた実例とすることは不当である、というが、右補強措置が継手の抜出しを契機として行われた点は所論のいうとおりであるが、原判決が説示するように、鉄建建設は抜出し部分につき応急処理をした後、大阪ガスが抜けかかった管を切断撤去して新設管と取り替え、大阪ガスの要請により鉄建建設は、原判決説示のとおり、鉄バンドとアングルを用いて継手を補強するとともに、さらに鉄バンドと材木を用いてガス管を中間支柱に固定する措置を講じたのであって、右措置は一種の固定措置であるとともに、抜止め防護の機能を有していると認められるから、原判決の説示は相当である。1は六〇〇ミリ中圧管が水平に九〇度にベンドし、また曲り角から二つ目の継手の外側から三〇〇ミリ管が上方に分岐したうえ九〇度にベンドして水平方向に延びている部分で、六〇〇ミリ管のベンドについては曲り角から西側に二つ目までの継手について抜止め措置がなされ、分岐した三〇〇ミリ管についても分岐した箇所から二つ目の継手までが抜止め措置がなされており、6は五〇〇ミリ導管のベンド部二箇所(九〇度水平方向及び22.5度の縦方向S字型)に帯鉄及びアングルを使用して抜止めがなされているところ、所論は、1、6いずれも抜止め措置は懸吊終了後相当期間を経過してなされていることなどを理由に前示のように主張をしているが、抜止め防護措置の目的、性格については、前記四3において説示したとおりであり、抜止め措置が懸吊終了後になされたことをもって、所論のようにいうことはできない。
④ 不施工例の検討
次に所論の不施工例につき検討するに、関係証拠によると、所論の不施工例五一箇所につき、抜止め措置の有無、措置の内容、角度など必ずしもはっきりしないものが見受けられるが、特に、別表番号一六については、右ガス管が曲管部及び丁字部を有し九〇度縦に曲がっていることの根拠は、地下鉄関係写真集(<押収番号略>)の一三頁下段の写真であるところ、入江玉治の当審証言(六回)によると、右写真で上からのパイプと下のパイプは切断されていると認められ、また右ガス管掘削当時どのような状態であったかは、右写真と西村英司の原審証言(八八回)によっては不明であり、右事例を不施工例として挙げることは相当でない。また、番号一九については、角度が四五度というが、地下鉄工事写真集(<押収番号略>)六二頁上、中段の写真及び中村弘の原審証言(五五回)によると、角度22.5度と認められる。
⑤ 抜止め施工の普及状況の検討
したがって、不施工例は五〇箇所であり、これに対し、原判決が別紙四に挙げる施工例は一〇例で一五箇所(1、2、4、5、6の五例については一例で各二箇所ずつ施工されている。)であり、この施工例一五箇所に対し不施工例五〇箇所という数字は、本件当時までの大阪市交通局の地下鉄工事における抜止め施工の普及状況を正確に表すものとは言えないが、これによって一応その概況を知りうるものと考えられる。そして、右数字を前提にしてその内訳を検討すると、管径の大きさでみると、施工例では一五箇所中一五箇所とも三〇〇ミリ以上であるのに対し、不施工例では五〇箇所中三〇〇ミリ以上が24.5箇所、二五〇ミリ以下が25.5箇所あり(管径が、曲管部で例えば二五〇ミリまたは三〇〇ミリとなっているものや、T字部・クロス部で二五〇ミリ及び三〇〇ミリとなっているものは、二五〇ミリ、三〇〇ミリのそれぞれを0.5箇所として計算した。以下同様である。)、曲管部のみに限ると(T字部・クロス部及び曲管部かどうか不明のものを除く。)、施工例では一四箇所中一四箇所とも三〇〇ミリ以上であるのに対し、不施工例では三九箇所中三〇〇ミリ以上が18.5箇所、二五〇ミリ以下が20.5箇所あり、圧力の大きさでみると、施工例では一一箇所中中圧管が六箇所、低圧管が五箇所であるのに対し、不施工例では二八箇所中中圧管が八箇所、低圧管が二〇箇所あり、曲管部のみに限ると(右と同趣旨)、施工例では右と同じであり、不施工例では二一箇所中中圧管が六箇所、低圧管が一五箇所あり、角度の大きさでみると、施工例では一三箇所中九〇度が五箇所、四五度が四箇所、22.5度が四箇所であるのに対し、不施工例では三九箇所中九〇度が七箇所、四五度が二四箇所、22.5度が八箇所あり、最後に、管径三〇〇ミリ以上、中圧管で角度九〇度のものについてみると、施工例は四箇所(二例)であるのに対し、不施工例はない。
所論は、原判決が、抜止め施工の有無と内圧、口径、角度の大小との関連が統計学上有意であるとの検定を経ずして右傾向の存在を認定するのは許されない。殊に、「中圧管であることが証拠上はっきりしているものについてみると、その口径はいずれも三〇〇ミリ以上であるが、少なくとも曲り角度が九〇度であれば、その大部分に抜止めが施工されていることが認められる」との説示については、右条件に該当するのは三箇所しかないが、うち二箇所に抜止めがされていることを理由に「大部分に抜止めが施工されている」というのは明らかに不当である、というが、原判決は、予見可能性の存否を判断する一資料として、施工例、不施工例の数が管の内圧、口径、角度の大小の別によっておおよそどのような傾向、分布を示すかを検討したのであって、統計学上の有意差検定をしなければ妥当な判断ができないというものではない。また、後段の点については、前示のとおり、右条件に該当するのは二例四箇所であり、右四箇所とも抜止め施工がされている。
以上の考察と関係証拠により認められる事実を総合すると、本件事故当時、大阪市交通局の地下鉄工事におけるガス導管に対する抜止め施工の普及状況については、水道管の場合のように、埋設物企業者である大阪ガスも、起業者である交通局も、標準的な施工図を予め作成したり、抜止め防護の施工を概括的に要請することはしておらず、抜止め施工がされる場合は、多くは施工業者が自発的にこれをしてきたが、大阪ガスの専従立会担当者が個別的に施工業者等に要請し、指導して施工されることもあった。管端末のカップ等に対する防護として施工されたものを別にすると曲管部等に対する抜止め施工例と不施工例の割合は証拠上一対三強の比率になり、内圧、口径、角度の諸点において抜出しが生じ易いとみられる中圧管、三〇〇ミリ以上、九〇度の場合では、数は少ないが、二例四箇所全てに抜止め施工がされており、おおよその傾向として、不施工例では、低圧、小口径、曲り角度の小さいものが比較的に多いのに対し、施工例では、中圧、大口径、曲り角度の大きいものが比較的多い、ということができ、これとほぼ同旨の原判決の説示は相当である。
もっとも弁護人は、当審弁論において、当審における証拠調べの結果五号線一一工区内では、ガス管として六〇〇ミリ、四〇〇ミリ、三〇〇ミリ、一五〇ミリの各種のガス管が埋設されており、これらガス導管の曲管部及びT字部は一一工区広間部に水平ベント一六箇所、同工区の南側を含め更に他の埋設部を越すことによる垂直ベンド部を含めると三〇箇所にも及ぶが、右のようなベンド部やT字部に補強工事がなされたのは、原判決の指摘する六〇〇ミリガス導管の立上り部分のみであり、また同工区で口径三〇〇ミリ以上で曲り角度九〇度以上のベンド部やT字部は五箇所あるが、そのいずれにも抜止め措置は施工されていないことが明らかとなった、といい、被告人Cの当審供述及びその調書添付の前示平面図(2)によると、五号線一一工区広間部に十数箇所の水平ベント部、同工区の南側を含めた垂直ベンド部が三〇箇所近くあることが認められる。しかしながら、現実に曲管部等のどの範囲の継手に、どのような抜止め施工をすべきかは、ガス導管の口径、内圧、曲り角度さらに現場における具体的配管状況等に応じて決められるものであるところ、大阪地区の地下鉄工事においてガス導管の曲管部等に対する抜止め防護措置の不施工例が少なくないことは既にみてきたところであり、所論に沿う同被告人の当審供述は、二〇年以上も前のことがらに関し、記憶に基づくいわば概括的な供述であるから、おおよその傾向として説示した前示判断を動かすに足りない。
⑥ 小括
以上のような大阪地区の地下鉄建設工事におけるガス導管の曲管部等に対する抜止め施工の実情に照らすと、「大阪地下鉄建設工事現場においても、ガス導管の曲管部等に対する抜止め防護措置は工法として普及していた」とする原判決の認定には賛同しがたいが、その施工の実施例に照らしても、本件継手に対する抜止め措置の必要性があり、被告人らもこれを認識すべきであり、認識することが可能であったと認められるから、大阪地下鉄建設工事現場における抜止め施工の実情、そのおおよその傾向を指摘し、これを被告人らの右認識ないし認識可能性判断の一資料とした原判決の認定・判断に誤りはない。
(4) いわゆる条件付承認書写について
① 被告人A及び同Bが見たか否かについて
所論は、被告人A及び同Bは右条件付承認書写を見たことはなく、右両名がこれを見た旨述べている被告人A、同B及び同Eの各検面調書の信用性は認められないから、被告人A及び同Bの両名につき、条件付承認書写を見たことの故をもって、本件継手部の欠陥の予見可能性や抜止め防護の施工が工法上要求されることについての認識可能性を補強することはできない、というが、被告人Eは四月四日鉄建建設天六作業所事務室で、同日上中清丸が二建から持ち帰ったガス管懸吊承認願写(<押収番号略>)を受け取り、これに三〇〇ミリ中圧管のベンド、T字部に抜止め施工することの条件が付されていることを認識したことが明らかであるところ、原審証人鶴留守の供述(二五回)及び司法警察員作成の四五・五・七付「ガス管懸吊についての承認願の提出経過について」と題する書面によると、警察官からのガス懸吊計画承認願の提出要求に対し、四月一一日の時点では、被告人Aの指示で所員が二建の提出した承認書と内容の異なる書面(図面)(被告人Eの原審(一二三回)供述によれば、<押収番号略>の懸吊計画承認願と思われる。)を提出して警察官からその違いを指摘され、四月二一日の時点では、被告人Eが条件の記載のない承認願(<押収番号略>と同一内容のものと思われる。)を提出したが、その際前に提出した書面の作成者は誰か分からない、といい、また上中は、遅くとも四月二二日の時点では、右条件付承認書(写)の存在の有無が問題となっていることを知っていたはずであるのに、四月二五日二建の岡本と対決させられるまでは本件写を持ち帰ったことを申し出た形跡がないことなど天六作業所四工区関係者の動きに不自然さが窺われること、被告人Aは警察官に対し四月二五日の時点で「条件付承認願はない」旨答えているが、被告人A及び同E両名は遅くとも四月二二日読売新聞に右条件付承認願のことがスッパ抜かれた後は、右書面の本件における重要性を十分に認識したはずであるから、その存在を知っていた被告人Eにおいて、それまで現場代理人として現場の総括責任者的立場にあった同Aに右の件を伏せておいたとは考えがたいこと(被告人Eは原審でしばしば「怖くなったから」と供述しているが、到底納得し得るものではない。)、四月二五日午後右写が小谷皖一(鉄建建設一五工区担当職員。以下「小谷」という。)の机の引出しから発見された経緯(即ち四月二五日警察官の要請で、午前一〇時ころから約一時間半ないし二時間天六作業所事務所を皆で手分けして探し(小谷も勿論自分の机の引出しを調べている。)ても見つからなかったのに、午後再度警察官の要請で探したとき、警察官の外出中に被告人Eが「小谷の引出しにあった」といって取り出した、というもの)は極めて奇異なもので、被告人Aの「どさくさに紛れて入っていたのかな」という原審(一〇三回、一〇六回)供述をもってしては説明しきれるものではなく(ちなみに被告人Eは原審(一一九回)、当審では、「何故小谷の引出しの中にあったのか分からない」旨供述している。)、原判決が原判決別紙第六の三の1で指摘する被告人Eが四工区関係の書類入れのロッカーに入れておいたはずの右条件付承認書写が四月二五日同工区と無関係の小谷の机の引出しからでてきたことについての疑問は、当審における事実取調べの結果によっても解明されていないことを付加するほかは、原判決が、別紙六において、右被告人三名の各検面調書と各原審公判供述を比較対照しつつ、各検面調書の供述が信用でき、各原審公判供述が信用できないこと、四月四日被告人Eが同A及び同Bに右条件承認書写を見せたこと及びそれらの認定の理由につき詳細かつ適切に説示するところは全て正当として是認できる。
所論は、被告人Eは、四月四日右条件付承認書写を上中から受け取り、被告人A及び同Bに報告しなかったところ、四月八日の本件事故後右承認書写が事故と関係があるのではないかと考え、対応に困り、事故発生後間もないころ、かつての直接の上司であったことなどで親近感があり、事故直後から現場復旧責任者として天六作業所に泊まり込んでいた辻良一土木第一部長(以下「辻部長」という。)に相談したところ、辻部長は、事故の大きさや施工業者としての鉄建建設の立場への配慮から、被告人Eが事前に右条件付承認書写を承知していたことが分かると鉄建建設に責任が及ぶことを危惧し、右条件付承認書写の件は辻部長と被告人Eの両名で処理し、そのことは社の内外に秘密にしたというのが真相であって、被告人Eは被告人A及び同Bには条件付承認書写は見せていない、というが、辻良一の当審証言の要旨は、本件事故の四、五日後の午後七時ころ、天六作業所所長室で被告人Eが「部長、こういうものが来ていますが」と言って本件条件付承認書写を持ってきたので目を通した。Eは特に説明せず、自分も聞きもしなかった。右写には、「300φ中圧管ベンドT字部には抜止を施工する事」と鉛筆書きしてあったのに気付いたが、大阪ガス、交通局、鉄建建設が別途協議して、大阪ガスが抜止め工事をする予告だと思った。大した書類ではないと思い、Eはそばにいなくなっていたので、近くにいた小谷に、特に説明しないで「しまっておけ」と言って渡したと思う。四月二五日の昼休みに作業所に戻ると、警察官が右写を探しに来ており、自分がそれを仕舞わせた記憶がはっきりあったので、警察官に必ず私が探し出すからしばらく待ってくれと言って、全職員にもう一度厳重に探すよう命じた。警察官の外出中、誰がどこから探し出したか忘れたが、探し出したので、自分が受け取って、戻って来た警察官に手渡した。警察官が当日来たとき、以前右写を小谷に渡したことを度忘れしていた旨、また被告人Eの当審供述の要旨は、四月四日夕方上中から右写のことについて、二建の岡本からこれを写していけと言われ、他には別に何も言われなかったと聞き、鉛筆書きだし後でまた何か言ってくるのかなと思って四工区のロッカーに仕舞った。被告Aや同Bには報告していない。辻部長に右写のことを話したのは本件事故の二、三日後のことである。当時Aは高血圧で病院に通院したり、取調べで警察へ行ったりしており、Bは火傷で入院中であり、他方辻部長は、当時現場責任者で、また自分が入社一、二年ころ上司として仕えたこともあり、同部長に話した。辻証言は大体そのとおりであるが、小谷でなくて、自分が右写を受け取ってロッカーに仕舞った。辻部長は右写を見て、「こんなものが来てたのか」と言った。四月二五日に右写が小谷の机の引出しから出たことは確かで、一審になる前や(一審の)被告人質問の前に、辻部長、小谷と自分の三人で話したが、小谷は知らないと言い、何故小谷の机の引出しから出たのか不思議である。身柄拘束後の警察の取調べで、右写につき上中から説明を聞き、一見してロッカーに仕舞った、と言うと、警察官から、「こんなこと言ってたらお前は一生出られんぞ、いいのか。こういう事故を起こして、お前だけの責任というわけにはいかないんだ」などと怒鳴られ、辻部長の名前を出したくないので、仕方なく、A、Bには悪いが、その名前を出した旨それぞれ一部所論に沿う供述をしているが、辻証言は同人の四六・七・七付検面調書と大きく相異するものであるが、同証言については、Eが右写を辻部長に見せた際、「こういうものが来ていますが」というだけで特に説明をせず、辻部長も聞いていないこと、辻部長が右写を見ている途中Eがいなくなったこと、四工区に関係のない小谷に何の説明もなく仕舞っておくよう指示をしたこと、四月二五日当時、前に写を仕舞わせた記憶がはっきりしていたというのに、小谷の名前を度忘れしたということ、仮に度忘れしたのなら、そこにいる全職員に対し、この前仕舞っておくよう言い付けたのは誰かと尋ねるのが普通であると思われるのに、そうしていないこと、同日警察官が天六作業所に赴いた当初、辻部長も被告人A、同Eとともに、右写の提出要請に対し、そのような書類はないと断ったと窺えるのに(司法警察員操野理一作成の四五・五・七付捜査報告書参照。なお小谷検面調書も、一旦右写を探したが見当たらないので、辻部長が「そんな書類は持ち帰っていない」と言い、その後さらに探したのに出てこなかった旨述べている。)、これと矛盾する供述をしていること(なお小谷の右検面調書は辻から右写を受け取っていないことを前提とする供述であるから、これとも矛盾している。)、小谷の机の引出しから右写が出たことにつき、爾後その原因を究明した形跡がないことなど、また被告人Eは、同Aが原審(一〇五回、一〇七回)で「辻が右写を警察に提出したことを聞き、同人がこれを隠していたか、何らかの関係があると思った」旨供述しているのに、その後の原審(一一八回、一一九回、一二二回、一二三回)公判で「事件の二、三日後辻に話した」とは一言も供述せず、当審に至って初めて前示供述をなすに至ったものであるが、同被告人の当審供述については、四月四日上中から説明を聞いた後、被告人A及び同Bに見せることも話もせず、ロッカーに仕舞い込んだこと(原判決も同旨の田中原審供述に対し、同様の指摘をしている。)、辻部長に右写のことを話す際格別の説明をせず、同部長からも特に質問がなかったこと、右写が小谷の机の引出しから出てくる前、作業所にいた者皆で探し、小谷も同人の机の引出しの中を探した際には見つからなかったのに(小谷検面調書参照。)、その後間なしに出てきたことについて、納得のいく説明がないこと、辻部長を庇いその名前を出さないため被告人A、同Bの名前を出した旨述べるが、辻部長は被告人A、被告人Bの上位者ではあるが、辻部長を庇うために右両被告人に条件付承認書写を見せたという虚偽の供述をすると、右両被告人の本件爆発事故の刑責に影響するだけでなく、会社自体の責任に大きな影響を与えることになり、被告人Eがこの間の事情を理解していなかったとは考えにくいことなど、それぞれ多くの不自然、不合理な点が見受けられるうえ、もし右各供述(前示のように、両供述間にかなり大きな食違いがあり、またそれぞれ所論とも必ずしも一致しないが、被告人Eが被告人A、同Bに右写を見せず、辻部長に事故後右写を見せたという大筋について)が真実であるならば、ことがらの重要性に照らし、それが長年月にわたる一審の審理期間を経て控訴審に至るまで主張、立証されていない(被告人Aの前示一部供述が存するのみである。)のは甚だ理解しがたいこと、その他原判決が詳細に説示する諸事情を総合すると、辻証人及び被告人Eの右各当審供述は到底信用できず、所論は採用できない。
所論は、右被告人三名が捜査段階で右条件付承認書写に関する供述をしたのは、何れも本件継手に抜止め施工をすることは施工業者の工法上の常識である旨供述した後であり、抜止めが工法上の常識であると認めれば右条件付承認書写の了知いかんは抜止め防護の責任の関係では副次的な意味しか持たないと考えたからである旨いうが、しかし、被告人Eのみならず被告人A及び同Bまでが条件付承認書写を見ていたとなると、鉄建建設関係者や鉄建建設自体の責任がより決定的になると危惧するのが普通であり、しかも工法上の常識かどうかという、いわば評価的な事実と異なり、見せたかどうかという客観的な事実につき虚偽の供述をしなければならない特段の事情は見当たらず、所論は採用できない。
その他所論にかんがみ検討しても、右被告人三名の各検面調書中条件付承認書写に関する供述部分の信用性を認め、被告人A及び同Bの両名が被告人Eから条件付承認書写を見せられその内容を知っていたと認定し、右被告人三名に予見可能性があったことの一証左とした原判決の説示に誤りはなく、所論は採用できない。
② 付記されている抜止め施工の意味について
所論は、右条件付承認書写に付記されている抜止め施工は、ガス導管懸吊後の外力等に対して、曲管部全体を補強する目的でなされるものであるから、右承認書写に「抜止め」の文言が記載されていても、原判決がいうような「抜止め不施工時の危険性」の認識ないし認識可能性を裏付けるものではない。即ち、本件ガス噴出事故は、懸吊、宙吊りまでに当該継手に生じていた著しい欠陥が原因であるところ、右承認書に「抜止め施工」を付記した大阪ガス関係者の誰一人として、右欠陥の存在を想定しておらず、右付記は懸吊後の外力に対処する意味でなされたものであるからである、というが、前記四3において説示したとおり、抜止め施工は、所論のいうように専らガス管懸吊後の外力等に対してのみのものでなく、一種の予防措置としての性格を持つものであるから、所論は前提を欠き採用できない。
5 まとめ
以上の次第で、「大阪市交通局の地下鉄工事における抜止め施工の実情」について一部原判決と見解を異にするが、右の点を考慮に入れても、予見可能性の有無につき、本件継手の抜出しに至る具体的因果について被告人らに認識ないし認識可能性があったのみならず、客観的状況即ち「地下鉄道施工法」による教え、東京地区における抜止め施工の実情、昭和四四年三月二〇日東京板橋区で発生したいわゆる板橋ガス爆発事故を契機に作られたガス導管防護対策会議の報告書の啓蒙活動、大阪地下鉄工事における抜止め施工の実情、本件中圧管の特殊な配管状況等を踏まえ、さらに被告人A、同B及び同Eについては条件付承認書(写)による抜止め施工の必要性の認識ないし認識可能性、被告人C及び同Dについては五号線一一工区におけるガス導管抜出し事故の経験などを総合し、地下鉄工事に技術上の専門家として多年の経験を有する被告人らは本件継手に抜止め防護の措置が工法上要求されることにつき認識ないし認識可能性があったとした原判決の説示は相当であり、事実誤認のかどはみとめられない。論旨は理由がない。
六抜止め施工の時期等結果回避義務について
1 総説
論旨は、原判決は、本件結果を回避するには、本件中圧管の全体を露出宙吊りさせるに先立ち本件継手に抜止め防護の施工をすることが必要であったとしたが、右抜止め防護施工の必要な時期等を誤認したもので、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。しかしながら、本件継手に対する抜止め防護の施工の必要性は、本件中圧管の露出、宙吊りによる万一の継手の抜出しを防止するためにあったから、その目的からすれば、その時期は、右ガス導管の曲管部及びその付近が露出・宙吊りになる前に施工しなければならない、というべきであり、右の点に関し原判決が「説明」第四の一、四、殊に四の(二)「抜止め施工の時期」の項において詳細に説示するところは、相当として是認することができ、当審における事実取調べの結果によっても、右認定は左右されない。以下、所論にかんがみ補足して説明する。
2 適切な結果回避措置はコーキングであるとの主張について
まず、所論は、本件ガス噴出の原因は、継手部の締結力の劣化ではなく、気密性が失われたことであるから、必要かつ有効な結果回避措置は継手部のコーキング(かしめ直し)であり、抜止め防護ではない、というが、本件ガス噴出の原因は本件継手の締結力の劣化による抜出しによるものであることについては、前記一において説示したとおりであって、所論は前提を欠き、また、コーキング(かしめ直し)の点は、次に説示するとおりであって、所論は採用できない。
次に、所論は、本件継手からのガス噴出を防止する唯一の適切かつ妥当な結果回避措置は、継手部の鉛のかしめ直しであり、抜止めは将来の外力等に備えるための曲管部等の補強措置であり、破損、折損の予防措置であって、著しい欠陥を有する継手に対する補修措置ではないから、仮に、本件中圧管の全体を露出懸吊するに先立って本件継手に抜止め防護を施工したとしても、本件継手は一トンの内圧に耐えられないほど締結力が劣化し、著しい欠陥があったのであるから、当然気密性も著しく低下していたことが容易に推認され、いずれ遠からずガス噴出の事態が生じたと推定し得る。したがって、抜止め防護は、本件著しい欠陥を有する継手からのガス噴出を避けるための有効な結果回避措置ではない、というが、抜止め防護の目的、性格については、既に判断したところである。また、本件継手の引抜抵抗力が約一トンの内圧にも耐えられないほど締結力が劣化していたのであるから、ガス噴出を防ぐ客観的に十分な措置としては、抜止め措置と併せてかしめ直しをすることが(所論のように、かしめ直しだけで十分とはいえない。)必要であったと考えられる。しかし、適切な抜止め措置をしておれば万一将来抜出しがあるとしても、本件のように短時間内に急激に継手が抜け出し、大量のガス噴出をするような事態は避けられたと考えられ、所論は採用できない。
3 抜止め施工の時期に関する主張について
まず所論は、仮に、原判決の認定したように、継手の締結力喪失による抜出しがあったとして、当該継手部を含むガス導管全体を露出宙吊りする以前に、抜止め防護を施工することが結果回避のために必要であったとしても、抜止めが懸吊前にされた例は極めて少なく、また被告人らには横断部北角の土砂を取り去る前に抜止め施工をすべきであるという認識がないのに、本件継手に抜止め施工をすることを鉄建建設関係被告人らに結果回避義務として課すことは、同被告人らに不能を強いるものである、というが、大阪市交通局の従前の抜止めの施工例からみて、施工時期が理想どおりに行われていない例が多いことは前示のとおりであり、また被告人らには右横断部北角の土砂を取り去る前に本件継手に抜止め施工をすべきであるとの認識はなかったと思われるが、四月六日本件中圧管の横断部北角付近を露出宙吊りするに際し、本件継手に抜止め防護の施工をすべきことの予見可能性が被告人らにあったことは前示のとおりであるから、所論の時期に抜止め施工を結果回避義務として課すことが、被告人らに不能を強いることになる、とはいえず、所論は採用できない。
なお、所論は、原審においては、抜止め施工時期について、終始本件継手部のガス導管を懸吊する四月六日以前になすべきか、その後でもよいのかを巡って攻撃が続けられてきたのに、原裁判所は、論告終了後「仮に検察官主張の抜止め施工義務が認められれば、結局抜止め施工をしないまま四月八日に横断部北角を掘って宙吊りにしたことがいけなかったことになるので、弁護人らは右の点にも留意して弁論すべきである」旨の注意をし、判決において、それまでの立証の経過を無視し、抜止めを施工しないまま北角の土取りをして管全体を露出宙吊りにしたことを過失行為と認定したが、右「露出宙吊り時期」という基準は原審の長期間にわたる審理において当事者が少なくとも明確には意識しなかったものであり、その意味で、「露出宙吊り時期」を抜止め施工時期として設定し、被告人らの過失を認定した原判決には審理不尽の違法があり、ひいては、本来過失行為といえない被告人らの行為を過失と認定した事実誤認があり、右誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。しかしながら原裁判所の右注意内容からすると、原判決の右抜止め施工時期についての認定が予想外のものであったとはいえず、もし弁護人らにおいて、原裁判所の右注意が予想外のものであり、そのままでは弁論できないというのであれば、その旨を述べ、必要とあれば、さらに証拠調を求めるべきであったのに、そのようにせず、そのまま弁論を行い、判決を受けたのであるから、原判決に所論の審理不尽ひいては事実誤認の違法は認められない。所論は採用できない。
次に所論は、そもそも、抜止め防護をなすべき施工時期は、抜止め(曲管防護)の趣旨、目的から判断して、懸吊後外力が加わる時点であり、原判決の認定するような露出宙吊り前ではない、というが、抜止め防護の目的が専らガス管懸吊後の外力等の影響に対するものだけでないことは前記四3で説示したとおりであり、所論は前提を欠き、採用できない。
4 まとめ
その他所論にかんがみ検討しても、原判決に所論の事実誤認は認められず、論旨は、理由がない。
七結果回避義務者について
1 総説
論旨は、もともとガス導管の保安責任はガス事業法により大阪ガスにあるから、結果回避義務について、被告人らに対し各自の業務の一環として、これをなすべき義務があったとした原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というが、関係証拠によると、原判決が「説明」第六並びに第七の「はじめに」、その一〔被告人らの経歴と業務〕及びその三〔結果回避義務、過失等〕の項において詳細に説示するところは、概ね相当として是認することができ、当審における事実取調べの結果によっても、右認定は左右されない。以下、所論にかんがみ補足して説明する。
2 ガス会社の保安責任との関係について
所論は、もともと、ガス導管の保安責任は、ガス事業法により大阪ガス等ガス会社にあることが法律上明らかに定められており、このことは地下鉄工事により、ガス導管が露出されることとなっても、何ら変りはない。ガス導管が露出されることにより、一部にせよその保安責任の所在がガスを製造、供給しているガス会社から、道路を掘削している地下鉄工事施工業者に移転する筋合いはないからである。またガス導管はガス会社が右ガス事業法に基づき、その定める保安規定に則って設計・施工・管理しているものであって、継手の締結力がガス内圧以下に低下していることは法律の規定からみてあり得べからざることであり、又現実にも未だかつてなかったことである。鉄建建設としては地下鉄工事標準仕様書に定められた懸吊方法に準じて十分強度のある懸吊方法を採用し施工してきたものであるから、それ以上に施工業者である鉄建建設の被告人らに異常な欠陥を有するガス導管継手に手当を施す責務を要求した原判決は、ガス導管の保安責任がガス会社にあることを定めたガス事業法の規定及びその立方趣旨を無視した不当な判断を示したというべきである、というので考えてみるのに、大阪ガスが、本件ガス導管の所有者であり、ガス導管安全確保の最終的責任者として、本件継手に対する抜止め施工を完了するよう具体的に指示指導してこれを実現させるようにしなければならないことは、当時のガス事業法の趣旨、規定からみて当然である。しかしながら、昭和四四年四月一日付通産省公益事業局長から大阪ガス宛の「ガス導管の他工事に起因する事故の防止」と題する書面(<押収番号略>)による指示を受け、交通局が大阪ガスを含む埋設物企業体と協議の結果、交通局で作成し、右各企業体宛に送付した「地下鉄工事にともなう埋設物保安業務一覧表」添付の「高速鉄道建設工事における埋設物保安業務の計画策定」(<押収番号略>)及び原審相被告人F(一三二回、一三三回)、被告人A(一〇八回)、原審証人二村治慶(一二九回)の原審各供述等関係証拠によると、ガス導管そのものに変更を加える支障移設、管種の変更、バルブ切込み等については交通局が大阪ガスに対してその実施依頼をし、大阪ガスがその施工時期を検討して設計・施工するが、ガス導管そのものに変更を加えないガス導管の露出にともなう懸吊防護(吊り防護のほかこれにともない必要とされる振止め、固定、抜止め等の防護措置も含まれると解される。)や埋戻し復旧にともなう受防護等については、交通局が事前に協議されたところに従い工事請負業者に施工させ、大阪ガスは交通局の要請によりまたは自主的にこれに立ち会って、ガス事業者の立場から適切な助言、指導をすることとなっていることが認められ、また一方交通局と鉄建建設との間の本件請負契約書(請負契約及び地下鉄工事標準仕様書)(<押収番号略>)には、原判決が「説明」第六の三「交通局と鉄建建設との間の契約内容」の項で指摘するように、①鉄建建設は工事開始に先立ち埋設物、架空線等について詳細な試掘調査を実施し、報告書を作成して甲(二建所長)に提出すること。また工事施工中はこれら架空線および埋設物ならびに道路付属物等を損傷しないよう注意し、常に保護補修を怠ってはならない(標準仕様書第一章総則第一五条)、②本工事区域内にある各種地下埋設物の附近は特に注意し、二建所長ならびに所轄官公署および会社係員の指示に従い些少の損傷も与えないよう掘さくするとともに埋設物の保護懸吊が完成後でなければその下部の掘さくに着手してはならない(同第九章掘さく第七条前段)、埋設物懸吊に伴う維持補強防護工に必要な費用は鉄建建設の負担とする。但しバンド締めは除く(同章第九条四号)、③埋設物の懸吊防護は標準施工参考図に示してあるが、施工に当たっては時期および方法について、二建所長ならびに所轄官公署及び会社係員の指示により些少の損傷も与えないよう施工すること。また掘さくに際しても特別の注意を払い、若し埋設物に異常を発見したときは速やかに二建所長に報告し、適切な処置を講じなければならない(同第一七章埋設物懸吊防護及び復旧第一条)、④本工事は交通の幅そうしている道路上で、民家に接近しているから作業に当っては事故を起こさぬよう充分注意し、万一鉄建建設の過失により民家または公共施設および車馬に損害を与えた場合はすべて鉄建建設の費用により復旧または弁償しなければならない(同第二章費用負担についての細則第七条)などの条項があり、これによれば埋設物の懸吊防護の措置は、鉄建建設の費用負担において、標準施工参考図に準拠し、施工の時期及び方法について二建所長等の指示を受けて行なうこととされており、右各条項のほか工事の各段階に応じて鉄建建設に事故防止のための注意義務を課した数多くの条項があり、もともと地下鉄工事は一歩間違えば危険な結果を招来しかねないものであることを考えると、鉄建建設はその工事施工に際しては、工事のすべての課程で工事関係者はもとより公衆に危害を及ぼさないよう常に細心の注意を払わなければならない義務があることが明らかであり、このことは、また右工事施工業務に従事する被告人らに対しても同様の注意義務を払うべきことを要請しているものであるから、前示のように本件継手に対する抜止め防護措置の必要性につき予見可能であったと認められる被告人らとしては、本件継手に対する抜止め防護の措置を、本来自発的に、大阪ガス担当係員の指導、助言を求めるなどして施工しなければならない義務があったといわねばならず、大阪ガスのガス導管保安確保に関する最終的な責任の存在は、被告人らの結果回避義務に消長をきたすものとはいえない。所論は採用できない。
3 被告人らは大阪ガスに危険を通報するだけでよかったとの主張について
所論は、本件継手部に重大な欠陥があったことからすると、本件事故発生を避けるために被告人ら施工業者の担当者としてとるべき行動は、ガス導管の専門家でありその保安責任を有する大阪ガスに対して速やかにその危険を通報連絡してその指示を待つことであって、それまでは素人的な工作をしないことが要求されるというべきである、というが、関係証拠によると、抜止め防護措置の方法は、原判決が「説明」第四の四の「(三) 工法上の過誤と本件事故との因果関係」の項で説示するとおり、基本的には、水取器両側の各継手の外側の管をそれぞれ鉄バンド等で緊帯し、その鉄バンド等をアングルまたはチャンネル鋼等で直接あるいは水取器の凸部を利用して結ぶとともに、これらをアングルまたはチャンネル鋼を用いて付近の土留杭あいるは覆工桁との間で固定すればよいから、地下鉄工事に多年の経験を有する鉄建建設においてその設計・施工は容易であったと認められるところ、前示のように抜止め防護措置は、元来鉄建建設が二建の指示を受けあるいは自発的に施工すべきものであるから、本件継手に対する抜止め防護を施工すべき義務があった被告人らとしては、所論のように大阪ガスにその危険を通報連絡してその指示を待つにとどまらず、自らあるいは大阪ガス係員の立会を求めて右防護措置を施工すべき義務があったといわねばならず、これまでにも施工業者が自発的に大阪ガスや二建と協議して施工図を作成し、あるいは自ら施工方法を設計するなどして曲管部等の継手に抜止め防護措置をしてきた例も少なくないから、被告人らに右義務を課することが被告人らに不能を強いるものとは思われない。なお所論は、本件継手の著しい欠陥は、「市街地土木工事公衆災害防止対策要綱」(<押収番号略>)第五章第三六の二項に「露出した埋設物が既に破損していた場合においては、施工者は、直ちに起業者及びその埋設物所有者に連絡し、起業者より所有者の責任において完全な修理等の措置を行なうことを求めなければならない」とある規定の「破損」に当たることなどを根拠にしているが、本件継手の欠陥は前示のように外観上それが存在することは全く判らなかったのであるから、右欠陥を右規定の「破損」に当たるとするのは相当でなく、所論は採用できない。
4 まとめ
その他所論にかんがみ検討しても、原判決に所論の事実誤認は認められず、論旨は理由がない。
第二法令適用の誤りの主張に対する判断
一主張の要旨
論旨は、原判決は、過失犯の解釈につき危惧感説及び企業組織体責任論を採用していると思われるが、これは刑法二一一条前段の解釈を誤ったものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。即ち、原判決は、
(一) まずもって企業組織体としての鉄建建設に行動基準としての「抜止め施工業務」を認めた上、これを鉄建建設従業員である被告人らの注意義務として認定したことは、企業組織体責任論を採用した証左であり、この点で、原判決は既に業務上過失致死傷罪の解釈を誤っている。
(二) 次に、被告人らの予見可能性につき、予見の対象を具体的「事実」ではなく、「可能性」や「危険」等をもって予見の対象とし、これについて予見可能性の存在を認定している点は、原判決が企業組織体責任論及び危惧感説を採用し、過失犯の成立要件としてかかる希薄な予見可能性で足りると解釈していることを明確に示している。
右(一)、(二)の意味で原判決が業務上過失致死傷罪の解釈を誤っていること、及びこれが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というのである。
二当裁判所の判断
所論(一)については、企業組織体責任論は、一般に、企業組織体の活動に過失がある場合に、その組織体の活動を左右しうる上層部の統括者や企業の支配者に対し刑事責任を追及しようとするものであると理解されているところ、所論は、右理論は、上層部の責任を追及するため、必然的に下層部従業員を含め関係者全員を捕らえようとする恐るべき武器となるとの懸念があり、本件は右懸念がまさか現実化した旨主張するが、記録によると、本件で起訴された被告人は一一名の多数で、かつ大阪ガス、大阪市交通局、鉄建建設の三者又はその下請業者のいずれかに属し、また原審の審理経過によって明らかなように、被告人らはいずれも過失の存否を中心に起訴事実を全面的に争い、義務ないし責任の所在を巡り右三者間に鋭い対立が見られたことにかんがみ、原判決は被告人ら(正確にはG、H両被告人を除き)の過失責任の存否を判断するに先立ち、まず、本件継手の抜出し防護義務についての右三者の組織体としての責任の有無とその配分の判断をしたものと認められるのであって(原判決の「説明」中の第五ないし第七の説示、殊に「第七 鉄建建設関係被告人及び交通局関係被告人の各刑事過失責任」の「はじめに」の項参照。)、原判決は、右各組織体の責任等の判断に引き続き、各被告人個人の注意義務(予見可能性、結果回避義務等)を具体的に検討のうえ、それぞれの過失責任の存否を判断しているから、これらに照らすと、原判決が企業組織体責任論を採用したとはいえず、右の点において業務上過失致死傷罪の解釈を誤ったとの所論(一)は根拠がなく採用できない。
所論(二)については、原判決は、その「説明」中の「第七 鉄建建設関係被告人及び交通局関係被告人の各刑事過失責任」の「その二〔予見可能性〕」の「はじめに」の項において、「過失犯が成立するためには構成要件的結果及び当該結果の発生に至る因果関係の基本的部分につき予見可能性が要求される」が、本件の実情の下では、本件継手が抜け出したりすれば、大量のガスが噴出して重大な結果(構成要件的結果)が発生することは明らかであるから、「本件事犯における予見可能性の問題は、本件継手の締結力に欠陥があり、あるいは欠陥を生じて継手が抜け出す事実の予見可能性の問題に帰着する」としたうえ、被告人ら各自につき過去における地下鉄建設工事の経験、本件中圧ガス導管横断部付近の配管状況とその懸吊・掘削作業の進捗状況に対する知見等を具体的に認定し、被告人らは本件中圧ガス導管の敷設配管状態のもとでは、本件継手の抜止め施工が工法上要求されることの認識ないし認識可能性があったのみならず、本件継手の抜止めに至る具体的因果についても、これを認識ないし認識可能性があった(原判決「説明」第七参照。)としているものであって、結果発生について単なる不安感ないし危惧感があれば足りるとしているわけではなく、所論(二)は採用できない。
なお所論中には、原判決が企業組織体責任論及び危惧感説を採用したことを前提として、原判決の事実誤認を主張する点があるが、前提を欠き失当である。
したがって、企業組織体責任論及び危惧感説を採用した原判決には刑法二一一条前段の解釈を誤った法令適用の誤りがあるとの論旨は、理由がない。
よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき、同法一八一条一項本文、一八二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官重富純和 裁判官川上美明 裁判官吉田昭)
別表<省略>
別表
番号
号線
工区
業者
口径・形状
内圧
角度・方向
一
四
二一
大成建設
三〇〇曲管部
不明
四五度
縦
二
〃
深江一部
〃
一五〇曲管部
低圧
九〇度
四五度
縦S字
鋼管
(スリーブ継手)
三
三
八
大林組
六〇〇曲管部
中圧
22.5度
縦
四
〃
〃
〃
二〇〇若しくは二五〇曲管部
不明
九〇度
水平
五
五
二〇
〃
三〇〇曲管部
〃
四五度
縦
六
〃
〃
〃
四〇〇曲管部
〃
四五度
水平
七
六
〃
〃
三〇〇曲管部
低圧
四五度
水平
八
二
六
前田建設
一〇〇若しくは一五〇曲管部
若しくはT字部
〃
九
二
〃
〃
三〇〇曲管部
不明
22.5度
縦
一〇
三
二
鹿島建設
一五〇曲管部
低圧
四五度
水平S字
一一
〃
〃
〃
一五〇T字部若しくは曲管部
〃
一二
六
〃
〃
一〇〇若しくは一五〇曲管部
不明
22.5度
縦S字
一三
〃
〃
〃
三〇〇曲管部
低圧
22.5度
縦
一四
〃
〃
〃
三〇〇曲管部
〃
四五度
水平S字
鋼管
(スリーブ継手)
一五
二
一七
三井建設
一〇〇若しくは一五〇曲管部
不明
四五度
縦S字
一六
六
一三
〃
四〇〇曲管部
〃T字部
中圧
九〇度
縦
一七
〃
〃
〃
四〇〇・二〇〇T字部
〃
一八
〃
〃
〃
一〇〇曲管部
不明
九〇度
縦
一九
二
三
間組
四〇〇曲管部
中圧
四五度
水平
二〇
三
七
〃
五〇〇T字部
低圧
二一
〃
〃
〃
〃
〃
二二
〃
〃
〃
四〇〇曲管部
中圧
22.5度
水取器に接継された
継S字 縦
二三
四
二三
〃
一五〇曲管部
低圧
四五度
斜S字
二四
〃
〃
〃
三〇〇T字部
〃
二五
二
四
白石基礎
一五〇曲管部
〃
九〇度
水平
二六
〃
〃
〃
三〇〇曲管部
〃
22.5度
縦S字
二七
〃
五
松村組
一五〇曲管部
〃
四五度
縦
二八
六
一七
〃
二〇〇曲管部
〃
四五度
縦・水平
S字型
二九
〃
〃
〃
二〇〇曲管部
不明
九〇度
水平
鋼管
(スリーブ継手)
三〇
二
一〇
清水建設
一五〇曲管部
〃
四五度
水平
22.5度
縦
三一
〃
〃
〃
五〇〇曲管部
〃
四五度
縦・S字型
鋼管
(スリーブ継手)
三二
〃
天王寺停
一部工事
奥村組
二〇〇若しくは三〇〇曲管部
〃
四五度
縦・S字型
三三
〃
〃
〃
三〇〇曲管部
低圧
四五度
縦
三四
五
二八
〃
三〇〇・一〇〇十字クロス管
不明
縦・S字
三五
〃
〃
〃
一〇〇曲管部
〃
縦・S字
三六
六
八
〃
三〇〇T字部
〃
三七
三
四
佐藤工業
二〇〇曲管部
〃
九〇度
水平
三八
〃
〃
〃
六〇〇~二〇〇T字部
〃
三九
〃
〃
〃
二〇〇曲管部
〃
四五度
縦
四〇
二
二
〃
三〇〇・二〇〇T字部
中圧
四一
六
北東・南東
出入口及び
吸気口
藤田組
二〇〇T字部
曲管部
不明
水平四五度
四二
〃
〃
〃
二五〇曲管部
〃
22.5度
縦
四三
〃
一四
フジタ工業
四〇〇曲管部
中圧
四五度
水平
四四
〃
〃
〃
〃
〃
四五度
縦S字
四五
五
片江排気口
西松建設
一五〇曲管部
不明
四五度
縦
四六
六
長堀変電所
飛鳥建設
二〇〇曲管部
〃
四五度
縦S字
四七
二
三
森本組
五〇〇曲管部
低圧
四五度
縦
四八
六
一六
森本組
一五〇若しくは二〇〇曲管部
低圧
四五度
縦
四九
四
二〇
鉄建建設
三〇〇曲管部
中圧
四五度
水平
五〇
〃
〃
〃
〃
低圧
九〇度
水平
一部鋼管
五一
六
二二
〃
一五〇曲管部
〃
四五度
水平